第95話 最初の視察
「ようこそノルディアへ 辺境伯 レオン・ノルディアです」
レオンが一礼する
エミルも静かに頭を下げた
「改めまして 本日より監査役兼監視役として滞在させていただきますエミルです よろしくお願いします」
「こちらこそ」
短い挨拶を終えると、レオンは微笑んだ
「長旅でお疲れでしょう まずは屋敷で休まれますか?」
エミルは首を横に振る
「お気遣いありがとうございます ですが監査が私の仕事です 一刻も早く現状を確認したいと考えております」
レオンは驚くことなく頷いた
「分かりました では案内します」
その返事にエミルは少しだけ意外そうな表情を浮かべる
「驚かれないのですね」
「何がですか?」
「監査を急ぐことです」
レオンは苦笑した
「監査役ですから 当然でしょう それに隠すものはありませんので好きなだけ見てください」
エミルはレオンを見つめる
その表情から焦りも警戒も感じられない
(余裕なのでしょうか……それとも本当に隠し事がないのでしょうか)
まだ判断はできない
レオンはガレスへ視線を向ける
「若様 馬車の荷物は私達で運んでおきます」
「あぁ 任せた」
「お任せください」
ガレスは騎士達へ声を掛けた
「荷物を運ぶぞ」
「「はっ」」
騎士達が一斉に動き始める
教国の護衛達も自然と手伝い始めた
その様子をエミルは静かに眺める
(団長自ら荷物を運ぶ……珍しいですね)
普通なら部下へ命じるだけだ
だがガレスは率先して荷物を抱えている
周囲もそれを当たり前のように手伝っていた
(上下関係はある……ですが距離が近い…)
レオンが振り返る
「では行きましょう それで最初はどちらをご覧になりますか?」
エミルは迷わず答えた
「ノルディアの主力産業からお願いします」
「ならボア肉事業ですね 分かりました ちょうど解体場も稼働している時間ですので そちらへ向かいましょう」
レオンが歩き出す
ゼムがその後ろへ続く
そして エミルも並んで歩き始めた
辺境伯邸を出ると 朝の街並みが広がっている
宿場町では既に多くの店が営業を始めていた
住民達はレオンの姿に気付き次々と頭を下げる
「おはようございます レオン様」
「おはよう」
「今日も頑張ってください!」
「あぁ ありがとう」
レオンは一人ひとりへ笑顔で返事をしていく
エミルはその様子を見つめていた
(随分と親しまれているのですね)
住民達の表情に怯えはない
媚びる様子もない
心から辺境伯を慕っているように見えた
しかし エミルはまだ結論を出さない
(第一印象だけで判断するのは早計です……セリオス様あなたが信頼する理由も この領地の真実も 私が全て確かめます)
その決意を胸に白銀の聖剣はレオンの隣を静かに歩き続けた




