第94話 教国の来訪者
セリオスと別れて二か月が経った
ノルディア領の辺境伯邸の執務室でレオンは机へ向かっていた
目の前には積み上がった書類
ボア肉事業
宿場町の収支
魔力草育成経過の報告書
ポーション事業
以前より仕事は確実に増えていた
それでも嫌そうな表情は見せない
領地が豊かになるほど仕事は増える
それは辺境伯として喜ぶべきことだった
レオンは一枚一枚内容を確認しながら判を押していく
コンコンと扉が叩かれた
「失礼します」
入って来たのはゼムだった
「どうした?」
「教国の馬車が領内へ入りました」
レオンは手を止める
「予定通りか」
「はい」
二か月前 セリオスと別れる際に聞いていた
教国から監査役兼監視役が派遣されること
名前はエミル
教国聖騎士団副団長
そして セリオスが最も信頼している人物の一人
レオンが知っているのはそれだけ
乙女ゲームでも出てきてない名前だった
「到着まであと十分ほどです」
レオンは立ち上がる
「じゃあ 迎えに行こうか」
「皆様には既にお伝えしております」
「団長ガレス殿 副団長エルン殿そしてリック殿で正門前でお待ちです」
「クロエとハンスとドーグは?」
「ハンス殿とドーグ殿は討伐隊として朝から出兵しております クロエ殿はノルディアの宿場町へ向かっております 昼には戻るとの事です」
「そうか」
レオンはマントを羽織る
「行こうか」
「かしこまりました」
二人は執務室を後にした
辺境伯邸正門には既に騎士達が整列している
先頭には騎士団長ガレス
隣には副団長エルン
そしてリックもいた
レオンを見るとガレスが頭を下げる
「若様 お待ちしておりました」
「待たせたな」
「いえ 間もなく到着とのことです」
その横でリックが街道を見つめていた
「教国の副団長か……どんな人なんだろうなー」
エルンがため息を吐く
「お前は少し静かにしろ」
「だって気になるじゃないですか!?」
リックはレオンを見る
「旦那どんな人なんですか?」
レオンは肩を竦めた
「俺も詳しくは知らないんだ 名前はエミル 教国聖騎士団副団長 セリオスさんが最も信頼している人の一人らしい」
「男ですか?」
「いや セリオスさんが彼女と言っていた」
「女の人か!」
リックの顔が一気に明るくなる
「じゃあ美人かもしれない!」
エルンが即座に頭を叩いた
「何でそうなる」
「痛っ」
エルンがリックに拳骨を食らわせた
ガレスは呆れたように腕を組む
「教国の客人だ!失礼のないようにしろ」
「分かってますよ」
その時だった
見張りの騎士が声を張り上げる
「教国の馬車です!」
全員の視線が街道へ向く
白を基調とした豪華な馬車
側面にはセレスティア教国の紋章が刻まれている
ゆっくりと辺境伯邸の正門前で止まった
御者が馬車から降りる
そして恭しく扉を開いた
静寂が流れ 馬車から一人の女性が姿を現した
腰まで届く艶やかな赤髪
澄み切った蒼い瞳
雪のように白い肌
白銀の聖騎士団制服
その上からでも分かる豊かな胸元
鍛え抜かれた引き締まった身体
誰もが思わず息を呑むほどの美貌だった
「……」
ガレスが目を見開く
エルンも思わず言葉を失う
整列していた騎士達も視線を奪われた
リックだけは口を半開きにしたまま固まっていた
「す……すげぇ……本当に美人だ……」
思わず漏れた本音
エルンが脇腹を小突く
「おい 間抜けな口を閉じろ」
「は、はい!」
慌てて姿勢を正すリック
ガレスは女性の腰に差した剣へ視線を向けた
そして小さく呟く
「まさか……白銀の聖剣か?」
その一言に騎士達がどよめく
「白銀の聖剣……?教国最強クラスの……聖騎士……」
レオンは初めてその二つ名を知る
(白銀の聖剣……セリオスさんが推薦する人は 想像以上の人物らしい)
女性は真っ直ぐレオンの前まで歩み寄る
その歩みに一切の迷いはない
レオンの前で静かに一礼した
「初めまして セレスティア教国聖騎士団副団長 エミルと申します」
その澄んだ蒼い瞳は監査役として
レオン・ノルディアという人物を見極めようとしていた




