第93話 教国の馬車
翌朝 セレスティア教国の教皇庁正門に一台の豪華な馬車が停まっていた
白を基調とした車体
扉にはセレスティア教国の紋章が刻まれている
その前には数名の聖騎士が整列していた
その中心へ 一人の女性が歩いて来る
白銀の聖剣 エミル
聖騎士団制服を身に纏い 腰には一本の剣
無駄のない足取りで馬車の前まで来る
「副団長」
護衛の一人が頭を下げた
「準備は整っております」
「ご苦労様です」
エミルは短く答える
護衛騎士達は馬車へ荷物を積み込み始めた
その様子を見ながら 一人の騎士が小さく笑う
「副団長」
「何でしょう」
「本当に監査だけですか?」
エミルは首を傾げる
「どういう意味ですか?」
騎士は苦笑した
「教国が辺境伯へ監査役だけ送るとは思えません 魔力草 ポーション どちらも教国の未来を左右する事業です」
「ええ そうですね」
エミルも否定しない
騎士は少し声を潜める
「正直に申し上げます 副団長ほどの方を派遣した理由は 監査だけではないのでしょう」
エミルは静かに見つめ返す
騎士は肩を竦めた
「教国は ノルディアとの繋がりを失いたくありません だからこそ副団長が選ばれたのかと思います」
エミルは何も答えない
その時だった 後ろから穏やかな声が響く
「その通りですよ」
全員が振り返る
セリオスだった
騎士達は慌てて頭を下げる
「セリオス様」
セリオスは苦笑する
「そんなに畏まらなくても大丈夫です」
騎士達は顔を見合わせる
セリオスはエミルへ視線を向けた
「今回の任務ですが 監査役兼監視役 それは間違いありません……ですが もう一つ目的があります」
エミルは静かに頷く
「教国とノルディアの関係強化ですね」
「その通りです」
セリオスは微笑んだ
「魔力草事業 ポーション事業 どちらもこれからの教国には欠かせません だからこそ今後も良い関係を築いていきたいのです」
エミルは真っ直ぐ答える
「承知しております」
少し間を置く
「ですが 私は監査役です 不正があれば見逃しません」
「もちろんです」
セリオスは即座に頷いた
「遠慮なく調べてください レオンさんはそれで困る方ではありませんから」
エミルは小さく息を吐く
「そこまで仰るのですね」
「はい」
「では 確かめて参ります」
セリオスは優しく笑う
「お願いします」
エミルは馬車へ乗り込む
護衛騎士達も続いた
御者が手綱を握る
「出発します」
馬車がゆっくりと歩き出した
教皇庁の門を抜け
一路 王国北西部のノルディア領へ
遠ざかる馬車を見送りながら セリオスは静かに呟く
「エミル あなたも会えばきっと分かります レオンさんがどんな人なのか」
そう言って 小さく微笑んだ




