間章 慈愛の聖人 中編
それから二年が経った
セリオスとリニアは八歳になった
教国では八歳になると魔力検査が行われる
その年に八歳となる子供達は、最寄りの教会へ集められ、一人ずつ魔力を調べる決まりだった
教会の広間には多くの子供達が集まっている
皆どこか緊張した表情だった
「セリオス緊張してるの?」
リニアが隣から覗き込む
「うん……少しだけ」
「大丈夫よ!魔力があっても無くても、セリオスはセリオスなんだから!」
そう言って笑う
その笑顔を見るだけで、不思議と緊張が和らいだ
やがて神父が名前を呼ぶ
「リニア」
「はい!」
元気よく返事をして前へ出る
大きな水晶へ手を置く
次の瞬間
水晶が赤く輝いた
神父が頷く
「火属性です おめでとうございます」
「やった!」
リニアは嬉しそうに笑った
続いて
「セリオス」
「はい」
ゆっくりと前へ出る
震える手を水晶へ置いた
白い光が広がる
神父は驚いたように目を見開いた
広間がざわめく
「属性無し……珍しい……」
神父は静かに告げる
「セリオス君は属性無しです」
セリオスは意味が分からず首を傾げた
「ボクだけ……違うんですか?」
「違います」
「ですが魔力はあります、でも安心してください」
セリオスは小さく頷いた
隣ではリニアが笑顔だった
「よかった!二人とも魔法が使えるね!」
教会を出る
するといつもの悪ガキ達が居た
「あっ!」
「いたぞ!」
昼間の子供達も集まってきた
「聞いたぞ!」
「属性無しなんだって!」
「やっぱり変な奴じゃん!」
「白い髪に赤い目だけじゃなくて、魔法まで変なんだ!」
笑い声が響く
セリオスは俯いた
その瞬間
「うるさーい!」
リニアが前へ出る
「またあんた達!」
「本当のことじゃん!」
少年が言い返した瞬間
ゴツンとリニアが少年を殴る
「いたっ!」
「本当のことなら何言ってもいいの!?だったら私も本当のこと言うわ!」
そしてリニアは少年の目を真っ直ぐ見た
「弱虫!人数がいないと何もできない!」
「うっ……」
「それに!セリオスの方があんた達よりずっと優しい!」
少年達は顔を赤くする
他の少年達が言った
「またリニアだ!」
「逃げろ!」
リニアは追い掛ける
「待ちなさい!もうセリオスをいじめないって約束しなさい!」
子供達は悲鳴を上げながら逃げていった
セリオスは思わず笑う
「ありがとう」
「気にしないで」
リニアは胸を張る
「友達なんだから!」
そして少し離れた場所
一人の男がその様子を見ていた
薄汚れた外套
鋭い目付き
口元には嫌らしい笑み
男は近くを歩く住民へ話しかける
「あの白い髪の子供は何者だ?」
住民は何気なく答えた
「教会の孤児ですよ、生まれた時に親から捨てられたそうです、今日属性無しだと分かったみたいで」
男の目が細くなる
「属性無し……ね」
その言葉だけで十分だった
教国では属性無しは特別な存在
表には出ないが、高額で買い取る者達がいる
男はそれを知っていた
「そいつは運がいい」
小さく笑う
「坊主は大当たりだな」
夕暮れ
リニアは神父に呼び止められた
「リニアさん荷物運びを手伝っていただけますか」
「はい!」
リニアは元気よく返事をする
「セリオス!先に帰ってて!すぐ追い付くから!」
「分かった」
セリオスは一人で孤児院への道を歩き始めた
その背中を男が静かに見つめていた
人気のない裏道
「坊や」
男が優しく声を掛ける
セリオスは立ち止まり振り返った
「道に迷ってしまってね、教会はどっちかな?」
「教会なら……」
セリオスが近付いた瞬間
男の手が口を塞ぐ
「んっ!」
甘い臭いが鼻を突く
急速に意識が遠のいていく
体に力が入らない
「ん……」
抵抗しようとしても動けない
視界がぼやける
男は周囲を見回したが誰もいない
「商品に傷は付けられねぇ」
そう呟き
セリオスを肩へ担ぎ上げる
そのまま裏路地へ消えていった
日が暮れた
孤児院では夕食の時間になっていた
「セリオスは?」
リニアが辺りを見回す
誰も首を横に振る
神父も不安そうな顔をした
「まだ帰っていませんね、おかしいです」
リニアは立ち上がる
「ちょっと探してくる!」
教会を飛び出した
広場
裏路地
いつも本を読んでいた木の下
どこにもいない
「セリオス!」
何度呼んでも返事はなかった
辺りはすっかり暗くなっていた
リニアの胸に嫌な予感が広がる
その時後ろから声を掛けられた
「リ……リニア」
振り返ると昼間セリオスを馬鹿にしていた少年だった
その顔色は真っ青だった
「何?」
リニアが近付く
少年は震えながら俯いた
「ごめん……俺……見たんだ」
「何を?」
「セリオスが……」
少年は涙を浮かべる
「変なおじさんに連れて行かれるところ」
リニアの表情が変わる
「どうして今まで言わなかったの!」
思わず大きな声になる
少年は涙をこぼした
「怖かったんだ……すごく怖い人で……でも……やっぱり言わなきゃ駄目だと思って……」
リニアは少年を見つめる
怒る気持ちはあった
でも震えながらここへ来た勇気も分かった
「ありがとう」
少年は驚いて顔を上げる
「え……?」
「教えてくれてありがとう、これでセリオスを助けに行けるわ」
少年は涙を拭った
「あの古い倉庫だよ…川の近くの……」
「分かった!」
リニアは力強く頷く
「ありがとう!」
そう言うと全力で走り出した
夜の町を
一人の少女が駆け抜ける
「待ってて!今助けるから!」
やがて川沿いの古い倉庫が見えてきた
リニアは息を切らしながら立ち止まる
そして小さく右手を見る
今日初めて使えるようになった火魔法
まだ一度も使ったことはない
失敗するかもしれない
怖いそれでも
「セリオスを助ける!」
その一心で魔力を込めた
赤い炎が掌へ宿る
「お願い!」
炎は一直線に倉庫へ飛んでいく
次の瞬間
乾いた木材へ燃え移った
炎は一気に燃え広がる
「なっ!」
倉庫の中から男達の悲鳴が響いた
リニアは倉庫へ向かって走り出す




