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乙女ゲーの辺境伯に転生したので奴隷落ちする悪役令嬢を金貨2万枚で救おうと思います(編集中)  作者: トンビが鷹を産んだトンビの方
第1章覚醒と別れ

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第10話 迷い洞窟の裏道

翌朝、まだ陽も昇りきらない時間。

レオン達は野営地を出発した。

出発してから、昼を過ぎた頃。

冷たかった山風が、湿り気を帯び始めていた。

目の前には、巨大なバルド山。

王国北方に存在する魔境。

そして、その麓には、ぽっかりと黒い口を開けた洞窟があった。


――迷い洞窟――


一度入れば、二度と出られない。

数え切れない冒険者や傭兵、盗賊、そして騎士達。

誰も帰ってこなかった死地。

レオンは馬を止めた。

ガレス達もそれに続く。

しばらく、誰も喋らなかった。

洞窟の奥から、生温い風が吹いてくる。

まるで、巨大な生き物が呼吸しているようだった。

ドーグが顔をしかめる。


「近くで見ると、本当に気味が悪いな」


「同感だ」


ハンスも短く答えた。

リックは洞窟を睨む。


「こんな場所に入ろうって考えた奴は、頭がおかしい」


「他から見たら、私達もそうかもしれませんね」


エルンが答え、苦笑する。

迷い洞窟の正体は、古代の賢者が築いた研究施設。

龍脈を利用し、転移魔法や時空間魔法を主に研究していた場所である。

そこには、魔道具や宝が沢山眠っていると言われていた。

だが、今ではただの死地として恐れられている。

レオンは洞窟を見上げ、前世の記憶を蘇らせる。


ゲーム画面


攻略サイト


掲示板


そして、何十時間も費やしたやり込みプレイ。


第五のアイテムバッグ


未来予知の魔眼


賢者の日誌


研究資料


全て知っている。

だが、ゲームと現実は違う。

レオンは入口を見た。

そして、あることに気が付いた。


(……待てよ)


レオンの動きが止まる。

ガレスが振り向き、問いかけた。


「若様?」


レオンは、洞窟入口の右側を見ていた。

岩壁だった。

ただの壁なのだがゲームなら、背景として処理されている。

そこに隠し部屋がある。

そして、隠し部屋の先には《未来予知の魔眼》が眠る部屋へ続く魔法陣。

その隣には、第五のアイテムバッグが保管されている部屋がある。

ゲームでは別々の道でしか到着できない部屋同士だが、この世界では壁一枚で隔てられているだけだ。

昔プレイした時に、何度も言っていた。


『面倒だな。なんで隣なのに、すぐに行けないんだよ』


レオンはゆっくりと目を見開く。

そして、ようやく気付いた。

ここはゲームではない。

現実だ。

ここでは、壁を壊せる。


「若様?」


ガレスが再び声を掛ける。

レオンは振り返った。


「洞窟を攻略する必要が、なくなったかもしれない」


全員が固まる。


「……はい?」


リックが間の抜けた声を出した。


「何を仰っているんです?」


レオンは壁を指差した。


「こっちだ」


そして、歩き出す。

洞窟の中へは入らない。

入口横の岩壁へ向かい、ガレス達は困惑しながらもそれに続いた。

やがて、レオンは壁の前で立ち止まった。

記憶どおり、少し色の違う岩へ手を伸ばし、指先で触れる。

すると「ゴゴゴゴ……」と低い音が響き、岩壁が横へ動いた。

全員が絶句する。


「なっ!?」


「隠し扉!?」


壁の向こうには、小部屋が現れた。

中央に古びた魔法陣が刻まれているだけの、ただの小部屋だった。

ガレスが呆然としている横で、レオンが呟く。


「本当にあった……」


レオンは魔法陣を見て、安堵の声を漏らした。

魔法陣は一部が欠けているが、問題ない。

ゲームでは、床に散らばったレンガを並べ直して起動していた。

レオンは床に散らばったレンガをくまなく集め、慣れた手付きで並べ、魔法陣を組んでいく。

そして、すぐに完成させた。

ガレス達騎士は、レオンが何度も夢で見たと言っていたことが本当だったのだと、驚きを隠せない。


「できた……ガレス、行くぞ!」


完成した魔法陣に、レオンは迷わず乗った。


「若様!」


全員が慌てて続く。

次の瞬間、視界が歪み、身体が浮く。

そして、景色が変わった。


古代の研究室


石造りの部屋


本棚が並び、机の上には、何かの研究データなのか、紙が散乱していた。

その奥には、中央の台座があった。

そこには、一枚のスクロールが置かれていた。


《未来予知の魔眼》


ガレス達が周囲を見回す。


「ここは……目的地ですかい? 若様」


レオンは首を振った。


「違う」


そして、奥の壁を見た。

そこが目的地だった。

ドーグが首を傾げる。


「若様?」


レオンは壁を指差した。


「この壁の向こうだ」


「向こう?」


「第五のアイテムバッグがある」


数秒の沈黙が流れた。

ガレスがゆっくりと聞く。


「若様、どうして分かるのですか?」


レオンは少しだけ笑った。


「夢で見た」


隠し部屋を見つけ、慣れた手付きで魔法陣を修復した。

そして、何の迷いもなく転移魔法陣に乗った。

そんなレオンを見てきたガレスは、自分の問いが間違いだったと判断し、誰にも聞こえない声で呟いた。


「今更だったな」


今更、疑う理由などない。

レオンはドーグを見る。


「ドーグ」


「はい」


「壁を壊せ」


ドーグは壁を見て、レオンを見た。

そして、もう一度壁を見た。


「やっぱり、そうなりますよね」


リックが呟いた。

ドーグは戦斧を構え、全員が距離を取った。

ドーグが大きく振りかぶり、石壁へ戦斧を叩き込む。

古代の壁が砕ける。

そして、二撃、三撃と続いた。

何度か壁を叩くと、石壁が崩れ落ち、土煙が舞い上がった。

やがて、土煙がゆっくりと晴れていく。

その先に現れたのは、もう一つの研究室だった。

石造りの部屋、壁際には古びた本棚、床には散乱した資料、そして部屋の中央に一際大きな台座の上に、一つの鞄が置かれていた。

誰も言葉を発しない。

その場にいた全員が、息を呑んでいた。

古びている。

だが、不思議な存在感があった。

レオンはゆっくりと前へ進んだ。

間違いない。

前世で何度も見た。

ゲーム画面の向こうにあった秘宝。

世界に五つしか存在しない収納魔道具。


《第五のアイテムバッグ》


レオンは震える手で台座へ触れる。

冷たい感触。

幻でも、夢でもない、現実だった。

ガレス達も、ようやく我に返る。


「……本当にあったのか」


エルンが呆然と呟く。


「若様の夢は、どうなっているんだ……」


リックが頭を抱え、ドーグに至っては、口を半開きにしたまま固まっている。

だが、レオンには、もう周囲の声は聞こえていなかった。

胸の中にあるのは、一つだけ。


"間に合う"


近道でできた時間があれば、ノルディアへ五日で帰れる。

野営中に研究資料を解析できれば、謎の商人が見つからなくても、父上を救える。


英雄 グラニウス・ノルディア


辺境を守り続けた男。

その命を繋ぐための最後の希望が、今、ようやくレオンの手の中にあった。

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