第十三録:遺恨怨恨 四節「奇襲」
こちらの誰かが欠ければ終わり、ケルビムも頭部が一人でも失えば終わり。
5人による攻防が続くまさに拮抗状態…しかしケルビムによりこの状態は崩れる。
「ナ、舐メルナヨ!…ウグァアァァァ!」
急に苦しみ出すケルビム、右頭部の額がボコボコと不愉快な音ととも皮膚や肉が蠢く。
その間も絶え間なく攻撃を続ける。
一発、首に斧がめり込む。
深く食い込んだ刃は首を両断するに至らなかった、攻撃を警戒して斧を引き抜きケルビムの右頭部に視線を向けた。
「ハハ!瞳を増やせるのか!」
額の中心に現れた充血し焦点の合ってない血の涙を流す瞳がギョロギョロと動き出し次には僕に攻撃を仕掛けてきた。
「ぐっ!?」
間一髪、防御が間に合う。
しかし魔法出力の上がり方が尋常ではない、魔法の発動速度が段違いに速い…だがまだかろうじて対応圏内。
「やるじゃないか!」
「ソノ余裕ガイツマデ続クカ!」
少し優位に立てたぐらいでこの態度よほど人間を下に見ているらしい。
だからこの堕天使は必ず僕たちに敗北する。
「ハハハハハ!サッキマデノ威勢ハドウシタ!」
しかし、目が増えた事のアドバンテージは大きい。
先ほどまでとは違い僕は防御に徹する、それに下卑た笑顔を向けるケルビム…やれやれ美しくないね。
「オ、終ワリニシテヤロウ!」
「うおっ!?」
「わッ!」
「ぐぅあ!」
その瞬間…僕たち前衛は全員は弾かれ不可視の魔法と地面に押しつぶされそうになりブランカ、ヤテンラが苦し気に声を上げる。
「みなさん!このっ…キャ!」
「うわっ!」
助けようと援護をしようとしたレミリア、ネローズも抑え込まれてしまう。
あの眼はケルビムの奥の手だったんだろう、でなければこの出力はおかしい。
「ハハハハハ!!我ノ真ノ瞳ニハ手モ足モデナイカ!ヤハリ人間風情ガ逆ラウナド!」
「…ナンダ…ナンダァ!ソノ目ハ!!」
「おや?失敬!君が滑稽でね!」
ケルビムは僕が余裕を持ったような態度や視線にいら立ちをぶつけ始める、全員が地面に貼り付けられているそんな絶体絶命な状況…別に狂っているわけではない。
本当に優位に立っていると思っていてこの堕天使が滑稽で仕方がない。
怒りを露わにし僕に対して魔法の比重が増す。
体の骨が軋む、内臓が潰されそうな重圧、強化をしていなければ一瞬で潰されいる。
「グッ!」
「ウル!ッおまえー!!」
「クッソ…動きがっ」
「このっ…わたくし達の大切な人をっ!」
いくら強化しようともダメージはある…少し内臓が傷ついて口から血を出してしまう。
その惨状に僕の恋人たちが怒りを露わにして魔法に抵抗をしている…ハハ!僕は愛されているね!
「哀レダナァ!悪アガキハ…」
「そう…かな?」
ボトリ…何かが落ちる音。
音源は目の前の堕天使いる場所から…地面に落ちた物それは──
「…ハ?」
困惑するケルビム、無理もない事、奴は今自分の生首を見る羽目になっている。
何が起きているか理解が及ばないがこの場は危険と判断し即座にその場から退避をする堕天使。
混乱の極みだろう、全員を魔法で捕えてあとは殺すだけという状況から自身の首が落とされる…ケルビムはただ忘れていただけなんだけどね。
「よう、大丈夫か」
寝転ぶ僕の横に立つ、ガタイ良い男がこちらに笑顔を向けるのは無事を確信しているから。
美しい刀を一度空に振るい血を刀から飛ばす、そう目の前のこの男は──
「お前様!」
「夜天羅!大丈夫か?」
「ウルー!」
「今、応急処置をいたしますわ!!」
「無茶して!」
魔法が解けたヤテンラがヨリツグに走り寄るなんとも美しい光景。
上体を起こすと僕の元にも愛しい人達が近くに来てくれた。
「それでヨリツグ、どんな魔術を使ったんだい?」
ケルビムの首を切り落とした時、彼はいきなりその場に現れた、移動をしたわけじゃない瞬間移動のように何もない所から現れた。
「コイスケのおかげだ」
にゃんにゃ!!
ヨリツグの足元には彼の黒い飼い猫がちょこんと座っていた。
「ほんとにお前さんはなんて優秀な子なんじゃ」
ヤテンラに撫でられゴロゴロと喉を鳴らし目を細める黒猫。
「さて…いけるかウル?」
「もちろんさ!」
レミリアの応急処置が済み体を軽く動かす…多少のダメージはあるが戦闘に支障を及ぼすほどではない。
「無理はしないでくださらないでね?ウル…」
「わかっているさ!ありがとう」
「でも…重要な物が手に入ったからね、僕らの勝ちさ!」
僕は地面に転がる堕天使の生首に視線を移す、これがあればネローズの能力が使える。
それに…視線を移動させケルビムを見るとこちらを警戒し自身の落とされた左頭部を新しく再生させていた。
しかし新しい頭部は目の焦点が合っていない、ネローズが言っていたように核である魂は切り落とされた頭部にあるため新しく再生させた頭部はただのハリボテ。
さぁ、幕引きの始まりだ。




