第十三録:遺恨怨恨 五節「悪魔の甘言」
俺とウルは堕天使に距離を置いて対峙している、敵は首を切られた事もあり警戒をしながら再生を優先していた。
「このまま仕掛けるか?」
「…そうだね!ただ…」
ウルに耳打ちをされ作戦が告げられ作戦聞いた俺は納得し理解した。
「頼んだよ!ヨリツグ」
「任せろ」
堕天使の生首を回収しウルへ渡すとブランカ、レミリア、ネローズは後衛に下がる。
「夜天羅、俺たちはアイツの相手だ。」
「うむ!わかったのじゃ!」
「'ソレ'どうだ?」
紅い鞭を握り直し俺の横に並び立つ…彼女が手に持つ武器、それはクリムゾンヴォーパルの尻尾部分を加工した鞭。
彼女は器用さとセンスがずば抜けている、そこに鬼族の身体能力が加わると大抵のことはできる。
「扱いに難はあるが良い武器じゃ」
「しかし…どういう魔術を使って奇襲したんじゃ?」
「じゃ、早速披露しようか!」
「!!コノッ!」
俺はコイスケを引き連れ堕天使に向かい走り出す、疑問に思いつつも夜天羅も鞭を構え走る。
堕天使はこちらの急な動きに魔法を放ち、俺は夜天羅にハンドサインを出し左側を攻めるように指示、彼女は頷いて左へ回り込む。
「よそ見か?」
「!!」
堕天使はすでに間合いに入っている事に驚愕し俺が振るった刀を急いで回避をした。
俺が急接近した事を疑問に思っているそれに自分には分からない未知の魔法を使用されている事にイラつきを見せていた。
(コ、コイツ!イツノ間ニ!マダ距離はアッタハズ!?)
バチィ!!大きな破裂音。
夜天羅の鞭が真ん中の頭部に直撃ウルが言ってた事は正解だった。
堕天使の左頭部はただ取り繕った頭の形をした肉の塊、頭部としての機能が死んでいる。
「グアァァァ!!」
このまま攻め続けウル達の準備を待つ。
──僕は前衛で戦っている二人の様子を伺う…頭を一つ失い弱体化をしているがやはりあの不可視の魔法に決定打を防がれる。
ネローズは地面に魔法陣を描きその中心にはケルビムの左頭部が鎮座していた。
「準備はいいかい?ネローズ?」
「ええ始めるわよ」
静かに呪文を唱え、魂を呼び出しネローズは"辺獄の座標"へ誘う。
これがネローズが半悪魔としての能力で魂と契約、自身の力にできる…ここからは彼女次第、僕らは静かに見守るしかない。
──ザァ…ザァ…波が押しては寄せる、薄暗い夕焼けの海辺に一組のテーブルと椅子その私の向かいには困惑している男性が座る。
「こ、ここは僕は一体!?」
「ようこそ、辺獄へ…私はネローズ・グリモワール悪魔よ」
「っ!!」
悪魔と聞き露骨に恐怖の色を見せる男、まぁ無理もない辺獄で悪魔と一対一でのやり取りだ普通ならもっと取り乱すだろう…さすがは数百年以上閉じ込められたにもかかわらず自我が維持できている魂。
「別に貴方の魂を取って食ったりしないわよ安心しなさい、悪魔は契約の場で嘘も偽りもしないわ」
そう私のこの能力で魂の契約を行う際のルール…決して嘘偽りをなく真実のみを伝えなければいけない、もし嘘をつけば私に罰が下される。
「…ぼ、僕は!うぅぅ…」
数百年ぶりの自由、自分がした…いやさせられた行いが彼の心を苛み涙を見せる。
自我が残っている事自体が奇跡と言わざる得ない、擦り切れ霧散してもおかしくはない…目の前の男の魂は元々強かったのだろう。
「貴方に契約を提案するわ」
「ぼ、僕に?」
「ええ、私の要求は一つ。堕天使の魔法の詳細対する貴方の対価は魂の安息よ」
「ぼ、僕は解放されるのですか!?」
「そうよ、解放されるわ」
私は指を鳴らすとテーブルに一枚の契約書とペンが彼の元に現れ男の目には希望が宿る、しかしすぐに疑心に駆られ契約書を訝しげに覗く。
「ですが…僕の魂を奪う気でしょう!?それに枢機卿であった僕が悪魔の甘言にっ!?」
そうか、彼は聖職者だったのか…天使に誑かされてなお誇りを捨てない高潔で不屈の精神、自我を保てるのも納得。
「言ったでしょう?私は貴方を食ったりしないと、それに…差し出す魂はもう一つあるでしょう?」
彼はハッと気がつき何かを考える、なにも彼から魂を貰わなくとも繋がっている魂がある。
「…あの堕天使を倒せるのですか?」
「ええ必ず…私の仲間が、私の恋人が倒すわ」
「わかりました…貴女を信じます。一つ、よろしいですか?」
「何かしら?」
枢機卿の男と私の目が合う彼の口から出た問いは意外なものだった。
「貴女は…あの人間の男性を心から愛していますか?良き時も悪き時も、富める時も貧しきも病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず死が二人を分かつまで、愛を誓い誓いますか?」
呆気に取られた。
この場で誓いの言葉を投げかけられる、聖職者なだけありそのセリフは様になっていた。
…この男は私を試している、その愛は本物なのか?と。
「フフ、アハハ!」
「な、なにがおかしいのですか!?」
「いやね、まさかそんな事を問われると思ってなかったからね!」
「…それでどうなのですか?」
「愚問ね、彼を愛してるわ」
私は枢機卿の目を見据え答えた。ウルを愛してないわけがない、不満もないレミリアにブランカそして私…偏りなく全力で愛を注いでくれているだから私もウルを心の底から愛している。
「…貴女のお気持ちはわかりました…不躾な質問、失礼しました」
「いいのよ」
「では、契約を…あの天使をどうか」
そう言ってペンを持ち自身の名を契約書に淀む事なく記入した。
「…契約成立、これで貴方は自由よ」
「ぼ、僕はどうすれば…」
自由にはなったがよく分からない場所でどうして良いか分からない…だが、それもすぐ解決する。
「貴方のお迎えが来たみたいよ」
「あ、あぁ!!」
彼はその光景を見ると椅子から立ち上がり涙を流し神に祈りを捧げた。
目の前に広がるのは天上へ至る階段
「神様はね寛容なのよ罪のない魂を放っておくことはないわ」
「こ、こんな、僕はっ」
「ぐだぐだ言ってないで早く行きない、懺悔なら私じゃなくて相応しい相手がいるでしょう?」
「はい!ありがとうございます!貴女に幸多き人生を!」
そう言って彼は天上への階段を駆けて行く私は黙ってそれを見届けた。
私の座る椅子の背に誰かがもたれ掛かる軽く、安心ができるその魂の温かさ…。
「アンタも早く行きなさいよね」
「えー?まだもうちょい居たいかなー!」
「アマリリス、アンタねぇ…」
私の背には亡き妹のアマリリスの明るい声が聞こえたかと思えばくるくるとステップを踏みながら私の眼前に姿をあらわす。
「まあまあ!いいじゃん!」
「もー…」
「そんなことより元気そうでよかったよ!」
アマリリスは私の膝に元にやってきて屈託のない顔を見せる、長く綺麗なツインテールが地面に接触してまうのもお構いなしだ。
「ありがと」
「相変わらずアツアツだねー!」
「ま、まぁね」
しまった…あの枢機卿との会話を聞かれていたのか…姿を見せないと思ったら隠れて見ていたんだろう。
実の妹にあんなところを見られてしまった…それから姉妹での他愛のない会話をする。
……話したいことが尽きて途切れた会話、心地いい波の音だけが規則正しく押しては寄せる。
「さ、私はもう行くわよ」
「戦いの途中だもんねー!」
椅子から立ち上がりウル達の元へ戻る準備を始める、最後にアマリリスに声をかける。
「アンタも次はちゃんと天上に行きなさいよね」
「んー!またね!お姉ちゃん!」
「もう…」
私は言葉ではそう言いつつもアマリリスに向かい手を振り笑顔で別れた。




