第十三録:遺恨怨恨 二節「堕ちた天使」
「お、お前様!」
夜天羅の悲痛な声が一瞬だけ耳に入るものの止まらない、後衛のはずの彼女たちよりさらに奥に吹き飛ばされ水切りの様に地面跳ねさせられる。
バゴンッ!…俺は岩に激突してやっと停止、ぶつかった岩は砕け瓦礫の上に寝転ぶがすぐさま上体を起こして悪態をつく。
「クソ!あの野郎!」
「わーヨリツグ大丈夫!?」
ブランカは俺が庇っていたのでほぼノーダメージ、対して俺は頭から血が流れているがそこまでのダメージはなく戦闘になんの支障もない。
「大丈夫、大袈裟に血が出てるだけだ」
「そ、それならいいけど、ありがとう!」
「ブランカ!ヨリツグ!大丈夫でして!?」
現れたのはレミリア、心配して来てくれた様子…その時、前方で轟音が鳴り響く。
あの得体のしれない……いや大方の予想はできるが前線がウルだけなのは問題だ。
「二人は先にウルと合流してくれ!一人じゃヤバい!俺もすぐに追いかける!」
「わかりましたわ!」
レミリアはすぐにブランカを抱えて戻る。
いくら飛行魔術があるからといって魔力の消費はある、体重のある俺よりブランカを抱えて早く前線に復帰させるほうがいい。
「…一筋縄じゃいかなそうだな」
血を拭い立ち上がる、見えない前方では戦闘音が聞こえる。
────僕は目の前のネフィリムに集中する、ブランカとヨリツグが心配だが彼は任せろと言った…なら僕は信用しよう、他ならぬ僕が誘い信用しようと決めたのだ。
ネフィリムの背中からさらなる異形が現れ形はさらに人に近いが下半身の脊髄がそのまま垂れ下がっていた…その背から爛れた黒い羽が4枚生えている。
極め付けは頭部が3つ生えていた。
果たしてこの魔物は何者か、そんなのはわかりきっている…なぜなら自身を証明する様に頭部には壊れた光を放つ輪がある。
「ハハ!まさか天使様とご対面とはね!」
皮肉を込めてそう呼ぶ。
堕天使は僕の声に反応したのか…ギロリとこちらを睨む───力が溜まった。
「突撃雷術"ブリッツカノン"」
爆ぜる紫電と共に音速を超えた突撃を堕天使に放つ、必死の一撃当たれば死は免れない…だが堕天使を屠るはずの雷槍は砕かれた。
「!?」
予想外の事態に困惑するが即座に状況を理解し堕天使から離れて距離を置く、なぜか追撃はせずこちらを見下ろす堕天使。
「やれやれ…まさか自慢の槍が破壊されるなんてね!」
「ウルー!」
「ウル!」
「レミリア!ブランカ!」
現れた二人、何よりブランカは無傷となるとヨリツグの状態が気になる…あれで行動不能になるほど弱いわけではないが心配ではある。
「わしの旦那様なら大丈夫じゃよ」
「いいね!ありがとう」
彼の恋人ヤテンラは毅然と堕天使を見ていたその目にはほのかな怒りが垣間見える。
恋人が傷つけられたのだ無理もないだろう。
「堕天使!?噂は本当だったんですの!?」
「えー!?」
「その様だね!」
「どうする?一旦引く?」
「いいや!ここで終わらせるさ!」
僕は腰に装備させていた片手用の手斧を2本取り出す…軽く斧を振り感触を確かめる、慣れ親しんだ武器が手によく馴染む。
「…これはあまり美しくないから好きじゃないんだけどね!」
堕天使に攻撃をしてわかった事。
攻撃が当たらないのではなく見えない何かに阻まれている、恐らく魔法の類。
流石は元天使と言ったところだ…が、攻撃を当たらない様にしていると言う事は当たればダメージが入ると言う事、未知の魔法をまずは攻略を目標にする幸い僕の恋人二人は魔法や魔術に詳しい。
「じゃ、レミリア、ネローズ、解析頼んだよ!ブランカは僕と前衛に、ヤテンラさんは─」
「わしも前衛に加わろうかの、旦那様もわかってくれるし今は非常事態じゃ」
ヤテンラはそう言うと弓から赤い鞭に武器を持ち替えた、彼女を見た時なぜ後衛なんだろうと思ったがヨリツグ曰く宗教上の都合らしいが…でも今は頼もしい事この上ない。
「では…堕天使討伐と行こうか!」
一番槍はもちろん僕。
堕天使に向かい斧を振るう、が意味はない…やはり見えない壁に阻まれている。
「おっと!その手には乗らないよ!」
堕天使はブランカにしたように僕を吹き飛ばそうとした、だがそうはさせないあの吹き飛ばす技はすでにネローズが対策済み、攻撃を避けられ驚く堕天使の3つの頭部が僕を見つめてくる。
堕天使に羽化する前に放った魔術"アトミックダスト"その副次的な効果。
堕天使の周りにはネローズの魔力の粒子が散布されていてブランカが飛ばされた後不可視の攻撃を警戒したネローズはその魔力を僕たちにだけ見える様に可視化した。
しかしデメリットもある、堕天使に対して魔術が使えない事、雷槍の様な直接攻撃ならまだしもレミリアの様な範囲魔術は使用してしまうと魔力の粒子を消してしまう。
この点から堕天使が攻撃をしても粒子が消えないということは魔法は直接攻撃系だろう。
「いいのかい?僕をそんなに見つめて」
「!!」
両脇から現れたのはブランカとヤテンラ、二人は同時に攻撃を仕掛ける。
完璧な連携…だが攻撃は阻まれた、堕天使は左右の頭をブランカ、ヤテンラに向け中央の顔は僕を見ていた…僕は再び斧を振るう、しかし堕天使は斧を避けた。
僕たち三人を引き離す様に円形状に攻撃を繰り出す…やはり、全員を視界に収めたいらしい。
戦っている以上、敵を視界に収めるのは当然だ、でも堕天使に対する違和感…今、何故避けた?




