第十一録:新天地 五節「弱い犬ほど」
「ほー…広いのう」
案内をされた試合場は広くまるでコロッセオの様な作りになってかなり広く試合場を囲む様に観客席があり今はがらんとしているが本来は大勢の観客が入るのだろう。
「じゃ!健闘を祈るよ」
「頑張ってねー!!」
「ご武運を」
「勝ってきてください」
「あぁ!」
「行ってくるのじゃ!」
ウルたちの声援を受けて俺たちは試合場に上がり、審判の側で二人で相手の登場を待つ。
現れた対戦相手に俺と夜天羅は顔を見合わせた、まさか…こんな事があるなんて。
「お?、対戦相手お前らかよ魔族連れ」
変わらず…ニヤニヤと人の神経を逆撫でする様な笑みを浮かべていた、まさかだが相手は前日に俺たちに絡んできた四人組。
驚きはしたがやる事はかわらない、審判の元へ来てお互い顔を突き合わせる。
「…よろしくお願いします。」
普通に彼らに挨拶をして定位置に移動しようとしたが声を掛けてきた…その舐めたような口調が俺の神経を逆なでするが怒りを向けるほどじゃない。
「おい!俺らが勝つからさぁ!もう降参してくんね?時間の無駄だろ?」
「降参はしません」
後ろの三人もクスクスと笑い小声で話をしている、俺はその言葉に拒否を示す…実力差を理解していないのか?と考えているとリーダー格の男がさらに言葉を続ける。
「強がりかよ!痛い思いすんのそっちだぜ!なぁ…今ならさそこの魔族を使わせてくれたら許してやるよ。」
そう、言葉を発して大笑いをする四人。酷く下卑た言葉と態度、おまけに性根も腐っているらしい。
もう、コイツらに遠慮する理由も気遣う理由も全て消え失せた。
今…人生で一番キレている、アーセナル枢機卿とのいざこざでさえここまでの怒りは湧いてこなかった、それはあの枢機卿の気持ちもわからなくはないからだ。
だがコイツらにはそれが一切ない。
「四発だ。」
「はぁ?」
馬鹿笑いしていた四人に告げる極めて冷静に。
「四発でお前らにトラウマを与えてやる」
もう、二度と俺の恋人に下卑た言葉を視線を向けれない様にしてやる…俺はそれだけ警告をしてやるとグツグツと煮えたぎる怒りを抑え定位置に着く。
「…お、お前様大丈夫かの?」
「大丈夫だ、夜天羅」
「わしは気にしとらんよ?」
「いいや、ダメだ俺が嫌だ徹底して叩き潰す」
子供の様な駄々だと自分でも思ってしまうが許せないものは許せない…愛している人が侮辱を受けている状態がどうしようもなく我慢ならない。
夜天羅は複雑な表情をしていた自分を思ってくれているのは嬉しいが負の感情を爆発している事が嫌なんだろう。
相手も定位置に着くと審判は説明を始める
「では、試合前にルールのご説明をさせていただきます」
この試合場は魔法"サブスティテューツサンクチュアリ"を使用。
あちらに置かれている身代わり人形が戦闘継続が困難なダメージを負った場合は死亡扱いになり退場になります。
傷は人形に肩代わりされますが痛みは肩代わりされないのでご注意ください、試合場からの場外も死亡になり退場になります
─以上になります、よろしいですか?」
「あぁ」
「うーす」
「では、構えて」
俺は刀を──抜刀せず鞘ごと夜天羅に手渡す驚きつつも彼女は受け取ってくれた。
あんな奴らに刀を使うのは贅沢が過ぎる、俺の拳で充分だ。
「ありがと、俺一人でやるよ」
「お、お前様…」
俺は夜天羅へさらに着けていたメガネを渡して解魔ノ瞳を全開放の状態になり自身の感覚を確かめる。
「お前!!」
吠えるリーダー格の男、不愉快を露わにしたが解魔ノ瞳を見て驚いていた、周りのやつらにも動揺が見て取れる。
「んの真似だ!!テメェ!」
「…弱い犬ほどよく吠える」
「はぁ!?おま─」
「わからないか?侮ってんだよ」
四人は飛びかからんほどの勢いと今にも俺を殺したくて仕方がない様子。
嫌な殺気がヒシヒシと伝わる。
「構えて!」
ピリピリとした空気を審判が一喝、俺は構えず立ったまま何もしないが相手は皆すでに臨戦体制、リーダー格の大剣、二人が杖を持ち恐らく後衛、残りの一人は片手剣を装備。
審判はこちらを見たが何も言わず…そして──
「では…始め!」
戦いの火蓋が落とされた、俺はゆっくりと歩き出す対してリーダー格の男は間合いを詰めて大剣を振り下ろす、なんて避けやすい大振りの攻撃。
攻撃が当たる直前、最小の動作で避ける…バゴンッ!!轟音を響かせ床に突き刺さる大剣。
動作の大きい攻撃を支援する様に片手剣の男がすぐに攻撃を仕掛けてきた。
右の薙ぎ払いだが…遅い、あまりにも攻撃が遅い。
スローモーションの様な攻撃を俺は避けずに片手剣の男に全力の拳を叩き込みそのまま石の床と拳で頭を挟み潰す。
ガゴンッ!鈍い音と共に地面が揺れ石床は割れ男の顔面は地面に沈む。
身代わり人形の頭が弾けて割れた。
「一人」
地面から拳を引き抜く、パラパラと石粒や粉が拳から落ちてゆく。
俺はゆっくりと体をあげて前方を確認、リーダーの男含め3人はピタリと動きが止まる…何が起きたのか理解できないそんな様子しかし俺は無慈悲に次の行動、瞬時に後衛に近づく。
「!!」
後衛二人は俺の接近に気がつき自分たちが今何をしているのか、どんな失態を犯したのかをその焦る表情が語るがあまりにも遅い。
後衛一人の首へ拳を、残りは脳天に振りかぶった鉄槌打ちで叩き潰す。
人形の首あたりから円形に爆ぜ、もう一体は頭から鳩尾辺りまで抉れた。
「ニ、三」
後衛二人に近づき倒すまで約30秒、たった30秒で三人がリタイアさせてやった。
リーダーの男は最初の一撃の場所から動けずにいまだに呆気にとられて現実が受け入れていない。
俺は早歩きでリーダーの男へ向かう、そこでハッと現実を直視した男。
「ま─」
何か言葉を発する瞬間に距離を詰めてガラ空きの胴体に全身全霊の拳をアッパー気味に叩き込んだ。
体は宙に浮き、ダメージを衝撃を何処にも逃す事ができない。
人形は胴体から弾け飛んだ。




