第九十一録:流れる平穏に。四節「壁。」
────フィリッツランド城内、訓練場。
二人の男が真剣を交えての実践的な立ち合いを行なっていた。
カァン…若い男の剣が弾かれ尻餅をつく、剣は後方へと飛ばされてしまう。
「はぁ…はぁ!!」
「…今日はここまでにしましょう、リヒトくん。」
「いえ!ゴルドーさん!僕はまだっ──」
「無理は禁物です、今日はゆっくり休んでください。」
理人はゴルドーを見上げてまだ戦う意志を見せるが…ゴルドーは理人の体力の限界を理解していた、だからこそこれ以上の無理はできない。
「…っ」
「そんな顔をしないでください、君は確実に成長をしていますよ。」
悔しそうな顔を見せる理人をゴルドーが慰めと期待の混じった声色で諭す様に話した。
「…ダメなんです……覡君に追いつかないと!!」
「であれば余計に無理はいけません。」
「っ……」
「焦る気持ちは理解できます…しかし彼の強さに追いつくのは容易ではありません。」
「それは…はい……」
しぶしぶだが納得した理人は立ち上がり剣を鞘に納める。
あの一件以降、理人は訓練に熱が入っている…それ自体は良い変化とゴルドーは受け取っていた。
「今日はありがとうございました!」
上手く自身の感情を切り替えた理人は礼儀正しく頭を下げると小走りでその場を去った。
「………」
「なーに悩んでんだ。」
背後から陽気な声と同時に肩に手を置かれた……誰だか一瞬で分かる酒臭さ。
「ゼルナさん…お酒くさいです。」
「ガハハハ!!そりゃ呑んでるからな!」
そう言いながら手に持ったワインを煽る、既に半分以上減っていたものがさらに半分減り瓶の中身はもうそこを尽きそうだ。
「うぃー…あーリヒトか、最近は訓練に明け暮れてるみたいじゃないか。」
「えぇ…いい事ではあるのですが少々───」
「がむしゃらすぎるか?」
「はい。」
ゴルドーが懸念していたのはリヒトが無理をしている事だ、多少なら別にいい糧にもなる…が、最近は成長の停滞が起こっている。
これは由々しき自体だ。
「…加えて彼は壁の前に立っています。」
「早いな、例の2人に触発されたか。」
「良い触発のされ方ではありませんでした…どうにかしたいものです。」
「あー…力の暴走なぁ。完全なアクシデントだったからしょうがねぇよ。」
「いえ、あれは私のミスです。」
夜天羅の魔王ノ宿木と接触…それは理人の勇者ノ灯火が反応し暴走。
ゴルドーは自身を責めていた、経験をと思い軽い依頼を自由に受けさせたが…結果は─。




