第九十一録:流れる平穏に。三節「信仰。」
ギルバートは全てを知っているが部下と話を合わせるために知らないふりをする。
「私の私見になりますが恐らく既に国の部隊がユダ遺跡へ向かっていると思われますが…こちらも人を向かわせますか?」
「やめておきましょう、どうせあそこにはもう何もありません。国と衝突するのも面倒ですからね。」
「承知しました…では次はどう動きましょうか?」
レニはギルバートに次の指示を求める、彼らの悲願…それに向かうための厳命を。
「今は待ちましょう。」
「待ち…ですか?」
どんな命令であろうとレニはその命に変えてでも遂行するつもりだったが…返ってきた返事は待機。
「えぇ"私の"計画は順調です、まぁ…カトレアを失いましたがそれは些細なこと。少し早いか遅いかの違いでしかありません。」
「では…なぜ?」
レニは訝しむ、順調ならなぜ主は計画を進めないのかと…ギルバートはそれに応える様に言葉を続けた。
「一度立ち止まり振り返りましょう…計画をより強固で完璧にするために。」
「ギルバート様…」
感銘を受けたレニは尊敬の念を抱きギルバートを見上げる、窓から差した光がギルバートを照らしてより神々しく映る。
「このレニ・アーチガード…今一度この命を捧げる覚悟をここに誓います。」
「えぇ…期待していますよ、レニ。」
頭を下げギルバートの表情が見えないレニ…その不気味で不敵な笑みは何を思うのか。
「では…部下にも待機を伝えて参ります。」
レニはそう言い頭を下げて部屋を退室、それを不気味な笑みではなく偽りの暖かなまるで聖者の様な清らかな笑みで見送った。
「あー?隊長戻ったんすね!」
レニが隊舎へ戻ると広いリビングに戒罰執行隊が全員集まって各々が自由に寛いでいる。
「…全員、席につけ。ギルバート様からのご命令を伝えてる。」
その一言で場の空気が一転する、張り詰めた空気に変わり僅か数秒で全員が席へとついた。
「よし…6人全員揃っているな、早速だが我らの主は待機を命ぜられた。」
「待機…?」
10代後半の男はレニと同じ様に訝しみ声を上げてしまう。
「そうだアルゴー。しかしただ待機するだけではない…これまでの我々の手筈に不備がないか入念に確認する。」
「それをギルバート様が仰られたのなら…従うほかありませんわね。」
ショートヘアの女性が頬に手を当てて命令を肯定…その瞳に熱意が帯び始めている。
「あぁ…サラ、その通りだ。」
「じゃあさ!役割分担どーするのー!」
幼い…10代前半であろう男の子と女の子の声が重なる、同じ顔、髪色をした二人がレニへと質問をした。
「そうだな…一先ずは各々が担当していた物を精査してくれ、確かヘンゼルとグレーテルの担当は──」
「魔法陣だよー!」
「では、魔法陣の再検証を頼む。」
「………」
顔の下半分を鉄製のマスクで覆っている女性が控えめに手を挙げる。
「どうした?ヴィオラ。」
ヴィオラは慣れた手つきで魔術を使い宙に文字を浮かべる。
"敵と遭遇したらどうする?"
「その時は各々の自己判断に任せる…が、積極的な戦闘は避ける様にしてくれ。」
"了解"
「では…解散だ、みなの検討を祈る。主人のために。」
「主人のために。」




