第八十七録:名前を呼ばれた日 四節「ちょーだいよ。」
──深い穴を降りてゆく。
薄暗い灯りに照らされ轍に囲まれた穴…機械が作動しているのか電子音の様なか細い音が反響していた。
「何という深さじゃ…まだ底が見えんのう。」
夜天羅がぽつりと呟く、レーヴァテインでそれなりの距離を降りてはいるがそれでもまだまだ深い。
「不気味だな…それに誘われている様で嫌な感じもする。」
ずっとだがカトレアが何もしない事が気がかりだ、もし逃走するのであれば夜天羅が何かしら察知するだろう。
しかしそんな動きはない、俺たちを待っている気がしてならない。
と、その時──ノイズ音が聞こえて来た。
"ザー…ザザッ、あー…聞こえてるー?"
「……カトレアか。」
"聞こえているみたいだねー"
動きのなかったカトレアがスピーカーを通して急に俺たちに接触してきた。
一瞬、驚きはしたがすぐに平静になりカトレアに言葉を返す。
「何の用だ。」
"いやぁ…取引でもどうかて思ってね。"
「断る。」
俺は内容など聞かずに即断して断る、当たり前だろう…カトレアかどうかという前に敵。
そんな奴と取引など言語道断。
"ツレないなぁ…いー話しだよ?"
軽く笑いながらそう言って取引の土台に乗らせようとしてくる。
……カトレアの声色からは余裕が見て取れる、命乞いというわけではなさそうな様子。
「断る、と言っている。」
"えー?……あー…まぁいいや、許可とかいらないし勝手に喋るね。"
先のやり取りなど全くの無意味でカトレアの茶番に付き合わされて少し癪に障る。
"取引内容はね……僕に魔王ノ宿木を渡さないかい?"
カトレアの言葉を聞き夜天羅と顔を見合わせる、そして───
「………ハァ。」
呆れて思わずため息が出てしまう。
こんな…馬鹿みたいな取引に俺たちが乗るわけがない。
カトレアの言っている事が本当にできるか否かはどうでもいいが恐らくは可能なんだろう。
でなければわざわざこうして俺たちに接触してこない。
「おぬしみたいな奴に渡すわけないのじゃ。」
夜天羅の返事はもちろんノー。
理由は単純で魔王ノ宿木なんて危険な代物を渡すわけがない、確実によからぬ事に使うしその被害は災害級になると容易く想像できる。
"面白くないなぁ…君は解放されるんだよ?そんでもって自分の世界へ大手を振るって帰れるんだよ?"
「おぬしに渡せばこの世界の人々が不幸になるのじゃ。」




