第八十七録:名前を呼ばれた日 一節「ユリーカ」
「こ…こは?……ま、ぶしい……」
目を覚ましたメアリーは明るさに目を細めながらこちらへと顔を向ける。
森の中とはいえ起きたてで光に目が慣れていないんだろう。
「おはよー!!」
「ド……ロシー……?」
記憶を探る様にドロシーの名を呼ぶ、その様子はどこか不安げで儚く弱々しい。
だがドロシーのおかげでメアリーに正気を感じる、何にも反応しなかった能面を貼り付けた様な無表情はもう消え去っていた。
夜天羅はドロシーを下ろして俺と一緒にメアリーへと近づき膝たちになって目線を合わせる。
「俺は縁継。」
「わしは夜天羅じゃよ。」
とりあえずは自己紹介をした。
色々と考えたがメアリーの情緒は無垢、恐らく精神年齢も見た目より低いだろう。
そこにあれやこれやと言葉を投げかけるのはいいとは言えない、まずは互いに理解が必要。
「より…つぐ、やてん……ら」
俺たちの名を辿々しく復唱しながら顔へ交互に視線を動かす。
「わ…たし…….は………だれ?」
首を傾げて俯くメアリー、悲しんでいる様子ではなく純粋に自分が誰なのかを思い出そうとしていた。
「記憶がないようじゃのう…」
「だな…どうしたもんか。」
俺と夜天羅はメアリーに聞こえない様に小声で耳打ちの相談を始めた。
まさか記憶が無いのは予想外だ、それも名前すら覚えてない。
「あのね…"メアリー"はもういないんだよ……!」
ドロシーが俺と夜天羅へそう耳打ちをした。メアリーはもういない?その意味がよくわからず夜天羅と顔を見合わせる。
「メアリーがいない?」
「あのね!メアリーって名前はプログラム?の名前なの!」
「プログラム?……なるほど。」
俺はドロシーが言いたい事が理解できた、プログラムか…酷い事をする。
「な、なんじゃ?」
「要するに"メアリー"ってのはクラレントを操る為のシステムみたいなもんでドロシーはそれを壊したんだろう。」
「うん!」
「ほーなるほどのう……ではこの子らに名はないのじゃな。」
そうなるとさっきの戦いのこと、カトレアの事を聞いたり教えたりするはよくはないな…
「だからね!ドロシー!名前を考えたの!」
ドロシーは笑みを浮かべながらそう言うとメアリーに近づいていく。
「あのね!貴女の名前はユリーカ!!」
「わたしは…ユリーカ……」




