第八十六録:ホムンクルスの夢 五節「生命溢れる色彩を。」
「よーし!準備終わった!いっくよー!!」
ドロシーが危惧していた通報、自爆機能は全て安全に破壊。
もうブラックボックスはただのデータの塊と化した箱…今からその箱を跡形もなく解体する。
「えーい!!」
気合いを入れたドロシーが一気に力を注ぐ…すると────箱が瓦解した。
パラパラと舞いながら消えてゆく黒い残滓、消えたブラックボックスのその中心へ駆け寄るドロシー…そこには。
「初めまして!私はドロシーだよ!」
小さく、丸まる様に座っていた少女。
ドロシーよりも小さなその子はゆっくりと顔を上げる…幼いメアリー。
「わ…たし……は?」
生まれながらに感情も思考も情緒も全てを封じ込められたメアリーの産まれたてとも呼べる人格、それは自身が誰かすらもわからない。
「えーと………うーん……」
「?」
悩むドロシー。
産まれたてのメアリーにカトレアが名付けた"メアリー"という名を教えてもいいのかと。
「ドロシーはね!悪いやつから助けにきたんだ!名前は…出ててからね!だから……ほら!!」
そう言ってドロシーはメアリーへと手を差し伸べる、メアリーは戸惑いながらもゆっくりと手を上げるがドロシーがさらに手を伸ばして掴み取って互いの手が触れ合う。
その瞬間、白一色の世界が一変した。
青く澄んだ空と揺れる水面が世界の全てに成り変わる。
何もない世界はメアリーが箱の外に出た事で余白のない広い世界に生まれ変わった、なんでも生み出せる海と空しかない世界へと。
「さ!早く出よう!」
「う、うん」
メアリーの表情には戸惑いと…初めて触れた暖かさに眩しいほどのドロシーの笑顔が鮮烈に目に焼き付く。
そうしてなすがままにドロシーにつられながら浮上する。
─────「ぷはぁ!!!」
眠っていた様に意識を失っていたドロシーが大きく息を吸い目を覚ました。
「ドロシー!」
夜天羅と声が重なり思わず二人してドロシーへと駆け寄ってしまった。
肩で息をするドロシーは俺たちを交互に見ると笑顔を向けてくれる。
「ドロシーやったよ!!上手くできた!!」
「おぉ!そうかそうか!すごいのう!」
「あぁすごいぞ、お手柄だ。」
夜天羅はドロシーを抱き上げて強く抱きしめる、終始嬉しそうにキャッキャッしていて俺の緊張もほぐれてゆく。
「うぅん…んん?」
「あっ!!メアリーが起きるよ!!」
ドロシーがメアリーの方へと指を指す。
俺と夜天羅も視線をメアリーへと移した、一人がうっすらと瞳を開けているが他の三人はまだ目を閉ざしたままだ。
「あのね!他の三人はワクチンだからちょっと遅いかも!!」
「ワクチン?この短時間でそこまでしたのか…すごいな。」
「えっへん!!」
夜天羅に抱っこされながら胸を張り自慢げなドロシー。




