第八十五録:悪に至る無垢は悪意なく── 一節「モデル」
────「っ…クソ!!」
俺は思わず悪態をついてしまう、戦況は芳しく無く拮抗状態。
違うな…躊躇っているだけだ俺も夜天羅も。
ザディルさんの魔剣による魔術"ザ・ライブラ"の情報はこの上なく有用だった。
デメリットはクラレントの中身を知ってしまったという事だろう。
「くっ!」
盾のないクラレント…ナンバー02の攻撃を避け隙のない連携でクラレント01のライフルが火を吹く、刀でいなし距離を置く。
情報を貰ってからはずっとこんな調子だ…自分でも動揺しているし戦闘に集中しなければいけないのは理解している。
「っクソ!趣味が悪すぎる!!」
悪態と同時に怒りが湧き上がってくる、クラレントの中身…メアリーのその真実、俺と夜天羅と…ドロシーがよく知る顔。
"エミリーと…そっくりだよ、縁継……"
夜天羅と待機しているドロシーから彼方ノ鏡を通じて聞こえてくる悲痛な声。
彼女たち…メアリーの顔が昔のエミリーの顔に瓜二つだった。
「嫌がらせにも程がある!」
"落ち着くのじゃお前様…まさかエミリーの真実を知ってしまうとは予想外じゃ"
「っ…あぁ…ごめん。」
夜天羅の声に少し気持ちを落ち着かせる。
そうだ…感情に振り回されてはいけない、これはカトレアによるドロシーへの嫌がらせ…それに柏木博士への復讐。
「エミリーのモデルが柏木博士の娘だったなんてな…」
自身の亡き娘をモデルのアンドロイド…柏木博士がなぜモデルにしたかはわからない。
若くして亡くなった娘に会いたかったのか、実験を通じてなにか目的があったのか…その真相はもう知る事はできない。
カトレアはどうやってかその柏木博士の娘である柏木 美琴のクローンホムンクルス"メアリー"を作りやがった、そして…当てつけの様に雑で物の様に扱いをしている。
…それで過去の鬱憤を晴らしているのかはどうでもいいが悪辣に尽きる。
精神的な揺さぶりを仕掛けているなら悔しいが大成功だ、おかげでクラレントたちを倒す為の一手が差せない。
"……助けたいのう"
「あぁ…」
2体のクラレント、その中にいるメアリーを助けたい。
相手に感情なんてものが無いのは理解している、烏滸がましいかもしれない…しかしだからといって諦める理由にはならない。
ただ…いい救出方法が思い浮かばない、感情がない故に倒した際に即座に自害か自爆の二択だろう。
「……どうしたもんか。」




