第九録:騎士と枢機卿 五節「募る疑心」
「彼らと至極普通の生活でした私たち家族とこのひと月を寝食を共にしました…とても楽しく過ごせました。」
懐かしむ様な表情にリグレからの言葉は嘘偽りない事が伺える、魔術や魔法がかけられている様子もない……なぜ…なぜ、そんな幸せそうに微笑むのです
魔族は人類の敵、異界から来ようともそれはかわらないはず。
────ガチャ、カウンター内側の扉が開かれ背の高いカウンターに隠れて姿が見えない。
「おとーさん!」
カウンターから現れたのは小さな少女小走りでリグレの元へ向かい足に抱きつく。
「リリー、ごめんな今はお客様とお話し中だ」
そう言いリグレはリリーの頭を撫でる、リリーは私に気がついたのか顔をあげてこちらを見上げた。
「こんにちは!」
無垢な少女の明るい笑顔が眩しい。
あまりにも眩しい、目が眩んでしまうほどに。私の様な、"おねぇさん" 違う、幻聴だ、違う過去が、私を見つめてくる。冷たい手が頬を撫でる幻覚だ、違う、あの子ではない。
あの子はもう居ない、私は、わたしが──
「大丈夫?」
ハッと意識が現実に戻る、心臓が早鐘を打つ、少女が心配そうに私の顔を見る。
「え、えぇ大丈夫ですよ」
ぎこちない返事を返してしまいリリーはそれを不思議そうに見ていた、一呼吸置き気持ちを切り替える
「他に何かありませんか?特に魔族の方?」
「おねーちゃんのお話をしてるの!?」
「リリー!すみません…この子がヤテンラさんと一番仲が良かったもので…」
視線をリリーに向けると興奮した様子村の住人も…この少女と仲がいいと言っていたまさか本当だったとは。
「そのヤテンラはどの様な方でしたか?」
「えーとね!すっごく優しくて!リリーといっぱい遊んでくれたの!それにこれをくれたの!」
リリーは右腕を見せる、その腕には変わった形の石がついたブレスレットを身に付けている
「おねーちゃんの国のお守りなんだって!だからリリーもお守りを渡したんだ!」
心底、嬉しそうに語る少女。
リリーの様子から魔族が好かれていたのがよくわかる…だからこそ揺らぐ、私が敵視した相手は本当に敵だったのか。
あそこまで過剰な対応は間違っていたのではないか…だがあの日、初めて魔族を見た瞬間に私が感じ取ったのは圧倒的な邪悪だった。
この魔族は必ず、必ず神に国に仇なす存在になるそのような確信があった、私の印象と二人が語る印象があまりにも乖離している
「そうなのですね…ありがとうございます。」
少女に礼を言い私はリグレに視線を向けた彼は不安そうな表情。
「…ヨリツグさんとヤテンラさんは何かしたんですか?」
「いえ…彼らは異邦者なのでこの世界でうまく生活をしているか確認していただけです」
半分は嘘だ、聖職者の身で心苦しいが二人を不安にさせないため。
「よかったです…お二人が何かしてしまったのかと…」
「おねーちゃんたちは悪い事しないよ!!」
「そうだな…あの二人はしないよ」
「うん!」
親子の会話を見守る…私は考えを改めるべきだろう。
あの日のアルレッドの言葉が頭に浮かぶ"悪を持って邪を持って生まれたからと言ってその通りになるとは限りません"彼は…私にこの言葉を事実を持って証明したこれ以上彼らを追う理由はない。
私はリグレに礼を言いカルステ家を後にした…今日はこの村で一泊をしてから明日の朝に出発する予定。
一晩お世話になる教会へ向かう。
教会に着き牧師に挨拶を済ませると牧師は私に一枚の封筒を受け取った…どうやら教会の使者を名乗る者がこの封筒を届け牧師に預けたようで用意された部屋に入り封筒を確認する。
封筒の封蝋印が目に入る、この印は────
「ギルバート・サイモン聖下…」
サイモン聖下、なぜかここ最近は私に接触をしてくる理由は不明だが思えば異邦の魔族の件を教皇議会に報告してからだ…サイモン教皇は尊敬すべき聖人の様なお人、しかし私はサイモン教皇を警戒してた直感だ、それ以外言いようがない…私は封筒を解き中の手紙に目を通した。
「なっ!告知もなしに城へ訪問!?」
教会の教皇といえど流石におかしい、確かに教会の立場は国と対等で教皇にとなれば国王と同程度には権力があるだがあくまで同程度、実際には国王の方が上だ。
だと言うのにこの様な礼儀を欠いた行為よほどの緊急性がない限りは失礼にも程がある!
こんな国に喧嘩を売る様な真似は前例がない恐らく…国王はサイモン聖下を受け入れるだろう、その真意を確かめるために。
この手紙を私に寄越したという事は私にも同席をしろ、と言うこと…それにやはりサイモン教皇への不信感が募る、私の行動を把握している。
恐らく護衛部隊の誰かに尾行…最悪なのは城の誰かが密偵、しかしここから城に戻るのに馬車で2日は掛かる…飛行魔術で急いで戻る他ない。
魔術なら5時間ほどで城へ戻ることができるギルバート・サイモン聖下…彼は何をするつもりなのか…私は牧師に急用を告げて村の教会から出た。
…嫌な予感がする、良いしれぬ不安が背中を刺す。




