第八十録:バーサーカー 五節「終着」
「………」
「………」
間合いを計りながらジリジリと距離を詰めながら牽制しあう。
まだ互いの武器の射程範囲ではないが…それでも視線、呼吸、僅かな手足の動き、敵の全て一挙手一投足を見逃さないように集中をする。
些細な機微を見逃せばそれが命取りになり勝敗を決してしまうだろう。
圧迫感のある静寂が俺たち二人を包み込む…自分の呼吸や心臓の鼓動さえうるさく感じる。
「………」
あれだけうるさくお喋りだったアスタロトから言葉と余裕が消えた。
必殺の間合いに入った…緊張感が増し気迫が増し圧が増す、常に首元へと刀を置かれている様な感覚…まさに死地。
同時だった。
刀とノコギリが衝突し静寂を切り裂き火花を撒き散らす、アスタロトと狙いは同じ。
相手の命を刈り取るための偽りない太刀筋、読み易く素直な軌道だが防ぐのは安易ではない。
膂力を活かした必殺、気を抜けば防御ごと斬り伏せられ死ぬだろう。
そんな綱渡りの剣戟が始まり直感で理解する、これが最後の攻防だと…。
さきほどまでの様に派手な動きはない、互いにその場に留まり下がらず打ち合う。
鋭い殺意の音が火花と共に散り一太刀交えるたびに背筋に悪寒が走る、こんなに死を間近に感じる闘いは初めてだ。
「っ!?」
カァン……刀が手から離れる、打ち合いの最中で分銅を使い俺から刀を奪った、隙が大きいにも関わらず行動に移した。
これはアスタロトの博打。
「おぉ!!」
「ガッ!?」
刀を飛ばされた瞬間に俺はアスタロトのノコギリを握る手を全力で蹴り飛ばした。
その結果、互いが素手になる。
武器を拾いに行く暇はない、つまり───
バギィ!!
「ぐっ!」
「カハッ!」
徒手での殴り合いだ。
徒手格闘での実力は未知数、しかしそれは俺もアスタロトも同じだが俺の見立てだと差異はないだろう。
肉を殴打する鈍い音それによる鈍い痛みが身体を襲う、限界など既に通り過ぎている。
クロスカウンター、互いの顔面に拳が直撃した…視界が歪み意識が飛んでしまいそうになる。
よろめいた身体と意識をなんとか繋ぎ止め足を踏み込む。
(クソ…刀だ!俺の刀さえ手元にあれば!!)
そう切望せずにはいられない、この拮抗状態を崩すには確実に優位が取れる物がいる。
「は!?」
「!?…ヨリツグ!貴様!この局面で隠し球とは!!」
アスタロトが驚くのも無理はない、本人の俺でさえも驚いている、刀が手の中にある。
(何が起こった!?いや!理解は後でいい!)
刀を握り刺突の構えをとるアスタロトは即座に反応、左胸を腕でガードするが……その腕ごと左胸へと突き刺した。
「カハッ………ハッハ…!完敗だ!!」
口から血を吐きながらもこちらへ快活な笑顔を見せるアスタロト…決着だ。




