第八録:達者で 五節「広くなった家。」
パタン…私たちは家に帰ってきた、娘を救ってくれた恩人の旅立ちを見送ってきた。
今日、一日気を張っていたのか娘のリリーは妻セイナの膝を枕に眠っている…妻は娘の頭を撫で慈しんだ顔をしている、私は妻のためにキッチンに立ち暖かなお茶を淹れる。
「セイナ」
「アナタ…ありがと」
カップを妻に渡して私も隣に座る…この家はこんなに広かっただろうか、ひと月前の3人家族に戻っただけだと言うのにそれだけあの二人は私たち家族に溶け込んだ。
事実、あの二人との生活は良いものだった食事を囲み、会話を楽しみ、日々を過ごす、息子…と、呼ぶには些かおこがましいが私に息子がいればこんな風なのかと夢想した事もある。
「…ちょっと、寂しいわね」
「そうだな…」
短い会話、だがそれだけで互いの気持ちがよくわかる、長年…夫婦として過ごしたその年数は理解し合うのに十分。
「私たちが思ってるよりこの子は強くなっていたのね」
「子の成長は早いな…リリーはいい友人と過ごせた」
「そうね…これからの成長が楽しみ」
柔らかく笑う妻…私はリリーを起こさない様に妻の肩を抱く、妻は私の肩に頭を預けしなだれかかる。
「あの子たちとの生活は楽しかったわ」
「あぁ…楽しかったな」
「また…会えたらいいわね」
「そう…だな」
私たちは彼らにもう会えぬとわかっている、自分の世界に帰るための旅に出たのだしかし心のどこかで再会を望んでしまう…それが言葉として出てしまった。
互いに無言になり思い耽る、心地よい静寂が流れ家族で過ごす静かな団欒。
「うぅん…あれぇ?」
リリーは眠たげな顔をし目をこすりながら妻の膝から頭を上げた。
「あら、起きたのねリリー」
「…まだねむぃ」
どうやら一時的に目を覚ましただけの様子、リリーはそのまま妻に抱きつき再び寝てしまいそうだ。
「あらあら…じゃあこのままベッドに行きましょうね」
妻はリリーを抱っこするとリリーの自室へ向かった、それを見送ると私は立ち上がりふと…今日撮った写真を取り出た。
買っていた写真立てに集合写真をはめてリビングに飾った。
写真はいい…思い出を鮮やかにしてくれる。
「あら…その写真飾ってくれたのね」
扉から姿を現したセイナ。
「セイナ、リリーは?」
「寝かせてきたわ、本当に疲れたのねすぐにまた眠ったわ」
きちんと横になり熟睡できる姿勢、娘が次に起きてくるのは朝になるだろう。
私は再びキッチンへ向かいグラスを二つ用意そこへワインを注ぎグラスを妻に手渡す。
「乾杯しよう」
「そうね、じゃあ…」
「若い二人の旅立ちに」
私がそう言うと妻は微笑みグラスを差し出す…カンッとガラス同士の軽い音が鳴り二人でワインを飲み干す、程よいアルコールが喉にスッと入り軽い飲み心地の程よいワイン。
私と妻は再びソファに座ると身を寄せてしなだれかかる妻。
どうやら…私も妻も若い二人の甘い雰囲気に当てられたらしい、月が顔を出し夜はまだ始まったばかり語らうにはちょうどいい。




