第八録:達者で 四節「さようなら」
夕陽が差し掛かる時間、馬車を転がす音が響く、いや…早いな!時速30キロは出てるだろ!?馬車のスピードって早くて時速10キロくらいだろ!この速さで4時間しかも日に2回走る、それを10日もか…異世界の馬すげぇな。
ものの数分で馬車駅に到着。
駅には搭乗待ちの人、見送る家族友人、迎えに来た家族、たくさんの人がいた。
その様子を横目に俺たちの乗る馬車はゆっくり進む、先に着いていたもう一台の兵の馬車の兵士と挨拶を交わした。
俺たちは先頭の馬車、配置に着き一旦馬車から降りて乗合馬車の乗客が搭乗を待つ…すると聞き覚えのある元気な声が聞こえてくる。
「あ、いた!おねーちゃーん!おにーちゃーん!」
声の方へ顔を向けるとリリーちゃんが小走りでこちらへ向かっていた、その後ろを歩いてやってくるカルステ夫妻
「リリー!」
夜天羅はしゃがみ手を広げるとリリーちゃんはそのままの勢いで夜天羅へ抱きつく嬉しそうな夜天羅とリリーちゃん、微笑ましい光景が目の前に広がる…同時にこの景色は見納め…寂しさが込み上げてくる。
「ヨリツグさん、ヤテンラさん…どうもです」
リグレさんの表情は少し寂しそうに見える、隣のセイナさんも気丈に振る舞っているがリリーちゃんの様子を心配していた。
「リグレさん、セイナさん…本当にお世話になりました。」
俺は手を差しだす、リグレさんは手を取り握手を交わした。
「私どもも楽しい日々を過ごせました。正直な話…寂しい気持ちもあります」
「ほんとに…元気でね、体には気をつけなよ!ヤテンラちゃんと末永く幸せにね!」
二人からの心からの言葉。この1ヶ月を思い出して少し泣きそうになる。
うにゃ…んにゃー、にゃん!
「コイスケくんも元気で過ごすんだよ?」
セイナさんはしゃがんでコイスケを撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。
「おねーちゃん!リリーの事忘れないでね!約束だよ!」
「あぁ約束じゃ、ほれ」
「?」
「同じ様に手を出すんじゃ」
夜天羅は右手を指切りの形にしてリリーちゃんの前に差し出す、リリーちゃんは訳がわからないが夜天羅の指示に従い同じ様に手を出す。
夜天羅は差し出された小指を自分の小指に絡ますと歌い始める。
「指切りげんまん♫嘘ついたら針千本のーます!」
歌い終わりと同時に小指をパッとはなす。
「わしの国でする約束のおまじないじゃ」
「えー!針の飲むの!?」
「ふふ、嘘をついたらじゃ」
「じゃあ大丈夫だね!」
「おねーちゃん大好き!!」
リリーちゃんは再び夜天羅に強く抱きつく。
夜天羅は優しく頭を撫でる…お互い泣かないと決めていても二人は涙目になっている。
しかし悲壮感はない、もう心の準備ができている。
「ふぐぅ!」
何かを噴き出す声が聞こえてきた。
視線を向けると近くにいたメルサさんが泣いていた…はい?
「す、すみばぜん…わだじこういうのによわくでぇ」
その隣で控えていたダリアさんは冷ややかな目で見ていた、涙もろい人なんだなぁ…
「ごめんなさいっす、副隊長は涙脆くて…ほら、あっちに行くっすよ邪魔になるんすから」
ダリアさんはしゃくりあげるメルサさんの背中を押して離れてゆく。
「兵士さん大丈夫かなー?」
「だ、大丈夫だよ」
正直これ以上なんて言えばいいかわからん…
でもありがたい事に突然の珍事に雰囲気は和らいだ、夜天羅はリリーちゃんとのハグをやめて手を繋ぎ立ち上がる。
「リグレどのセイナどの、ありがとうなんじゃ」
「いえいえ、こちらこそ娘の友達になってくれてありがとうございます。」
「ヤテンラちゃんも!気をつけてね、無理しちゃダメよ!」
「あ、これ休憩中にでも食べてね」
セイナさんから差し出されたカバンを夜天羅が受け取ると二人で中を見るとサンドイッチのお弁当だった。
「うむ!ありがとうなんじゃ!」
「お二人ともー!もうすぐ馬車がでるっすよー!」
ダリアさんが声を掛ける、出発時間だついに村を出る時間が来てしまった。
「…ほれリリー、セイナどののとこへ帰るのじゃ」
二人はギュッと固く繋いだ手を離した。
リリーちゃんはセイナさんに抱きつきこちらを見たその顔は笑顔、強い子だ…
「じゃ!リグレさん、セイナさん、リリーちゃん!お元気で!」
「元気でのう!」
最後は元気に別れたい、俺たちはカルステ一家に笑顔を向けて手を大きく振った。
「えぇ、良い旅を」
「達者でねー!」
「バイバーイ!!!」
互いにまたねと再会の約束はできないこれが…別れになるから。
別れの挨拶を最後に俺たちは背を向けた後ろ髪を引かれる気持ちでいっぱいだ、しかし決して振り返りはしない。
馬車に乗り込むとするとすぐに出発、走る馬車はみるみると村を小さくしてついには村が見えなくなる
この瞬間、俺たちの旅が始まった。




