第七十三録:来訪者 三節「駆ける屍」
「くッ!」
手に持つマチェットで首無しの強靭な爪を弾く、重い一撃が腕に伝わる…さらに間髪入れずにもう1体からの奇襲。
「ハァッ!!」
ネーメル隊長のフォローにより私への攻撃は防がれる。
強い…2体になってから明らかに強さが増して更に厄介なのが2体による完璧な連携。
「……一体は私が相手をします。」
「ネーメルさんが一人で?無茶です!」
「いや!大丈夫だよ!アレを使うんですね!ネーメル隊長!」
「えぇ…レヴィを起動します。」
ネーメル隊長は剣を逆手に構えて術式を起動を開始、危機を察知したのだろう…首無しが狙いを定めて駆ける。
だがそれは叶わない、ヤテンラさんの矢が同時に2体の前足を貫く。
これほど頼もしい後方支援もそう無い。
「精製完了…レヴィ、起きなさい。」
術式陣からは鎧を纏った女性が現れる…ネーメル隊長の切り札にして我が国における防衛の要。
「これは!エレメントゴーレム!すごいね、ほとんど魔法じゃないか!」
「現状、使えるのはネーメル隊長ぐらいだろうね!」
エレメントゴーレムは魔力のみで構成、精製…ただしその魔力の消費は蒸気を逸している。
もし魔力共有が可能な条件だとしても一般的な魔術師50人は精製に必要だろう…維持を考えるならそれ以上。
ネーメル隊長はそれを最大3体の精製、維持に関しても3体なら1週間は維持できる。
「ベリル、貴方たちはもう一体に集中してください。」
「了解!」
私たちは作戦通りに別れヤテンラさんも動きを見て察してくれたのか分断する様に矢を放ってくれた。
分断は成功、首無しは矢を警戒して距離を置き私たちへ襲いかかる隙を伺う。
「厄介だね。弱点が見つからないとどうにもできない。」
「だな!」
ラグナが改めてそう言った…現状はこれに尽きる、弱点である頭の場所さえ特定出来ればデュラハンの術式は消えて首無しはただの屍へ戻る。
しかし…どこにある?もうかなり全員で攻撃をした、あの巨体に見合う頭部となれば胴体に収める他にないが、それがない。
「来るぞ!!」
ネーメル隊長が声を上げる、デュラハンが同時に動きだして向かってきた。
こちらを翻弄する様な動きで距離を詰めて───「ラグナ!」
凶爪が襲いかかる、生を許さず何もかもを薙ぎ払う死の鎌…だがそれはラグナに当たる事はなかった。
「!?」
私の横にいたはずのラグナが急に消えた、吹き飛ばされたとかではない…忽然と姿を消した、混乱をするがそれは首無しも同じ。
────にゃん。
凛とした鈴の音と猫の声が聞こえてきた、これは……。
「プハァッ!?」
急に地面から、いや影からラグナが現れてその足元にいたのは──
「コ、コイスケ君!?」
にゃあん!にゃんにゃんにゃ!!
ヨリツグさんとヤテンラさんと共に行動する黒猫のコイスケ、その子が私に何かを伝える様に鳴き声を上げながら前足を影に出し入れをしている。
「!君にはまさか!いやはやすごいな!そんな力があるのか!」
にゃん!!
肯定、この子にはどうやら影に入る事ができる…しかもラグナを入れた様に他者をも対象。
「加勢か!ありがとう!」
にぁんな!
コイスケ君のフォローはありがたい、今は味方を助けてくれたが敵の隙を作る事も可能だ、それが予期しないものだとしても私たちなら合わせられる。
「君は好きに動いてくれ!」
にゃん!!
トプン…影へと消えてゆくコイスケ君。
私はマチェットを構える、首無しも警戒をやめて襲いかかってきた。
「ハッ!」
ガァンッ!マチェットが爪と激しく衝突をして火花を散らす。
瞬間、鍔迫り合いをしていた首無しの前足が吹き飛ぶ…ヤテンラさんの射撃による支援。
痛みを感じない首無しは瞬時に左前足の攻撃を仕掛けてきた…だがそれは当たらない。
コイスケ君により後ろ足が影に飲み込まれて身動きが取れなくなる。
「オォッ!!」
その隙を逃さず懐に入り込み力を込めて叩き斬る様にして腹部を刻んでいく。
肉と血が撒き散らされる、私は弱点である頭部を探す…血があるというのに血の通わぬ冷たく色のない臓腑。
「ッ!?」
見つけた、首無しの弱点を。
心臓の代わりに埋め込まれていたソレは異様だった、通常のデュラハンとは異なるソレ。
「なん…だ!?」
犬の遺体…頭部だけではなく身体ごと、しかしそれも不可解で身体がなぜか縦に裂かれた状態で埋め込まれている。
疑問はあるが後回しだ、この首無しを倒す事が最優先。
マチェットを振るい弱点を切り裂く。
ピィーー!!
甲高い鳴き声を上げて身を震わせて地面へ倒れた首無し。
「や、やった…かな?」
「弱点は潰したからな!」
ピクリとも動かない首無しは元の屍に…あるべき姿に戻っ────違う!!




