余談「捜査開始。」前編
「もう…もう疲れたっスよ〜青鐘寺先輩〜」
そう言ってデスクに伏せて力尽きているのは俺の部下の荒垣。
「今回は確かに骨が折れたなぁ…お前らも!お疲れ様や!ようやった!!」
荒垣だけではなくこの支部を預かる長として疲れ果て死屍累々の部下に賛辞を贈る。
「こんなに記憶の改竄や事実を逸らすのは流石にこころが痛むっス。」
「まぁな…でも事実を話すわけにも行かんしどうもでけへんわ。」
歯痒い気持ちはよくわかる。
人を超常から守るための組織であるにも関わらずにそれができずに本来なら守るべき人々を騙しているのだから。
「今日はみんなでうまいもんでもたらふく食うて明日からは解決に向けて捜査や!」
「焼肉!焼肉食いたいっス!高いやつ!!」
さっきまで疲労困憊だった部下たちが一気に色めき立ち活力がみなぎっていく。
「おう!好きなだけええで!」
その日の夜は肉を食い酒を呑みどんちゃん騒ぎをして次の戦いのために英気を養う。
───次の日、俺と荒垣は改めて覡家の寺へ訪れた。
「今日はお時間を頂きありがとうございます。」
「いえいえ…私どもでよければ知っている事は全てお話ししますよ。」
応接間で長い座卓を挟み覡夫妻と向かい合う…落ち着き払っている。
昨日もそうだったがこの二人は息子がいなくなること知っている、知っていてそれに身を任せた。
「それでは──」
荒垣が聞き取りを始めた。
……全て、か、あの来空氏の手記が無くなった事が大きいのだろう。
あれは一般人、いや妖術に携わる俺たちでさえ呪いに等しい未来を知るとはそう言う事。
断片的な啓示でさえ気を張るものになる"この行動は未来から外れていないか?"そう言った答えを知ったが故の不安に苛まれる。
半端でさえしんどい…千里眼を持っていた来空氏はさながら未来の奴隷、そこへ向かうためだけの行動以外が許されない。
一秒のズレで簡単に未来は大きくかわる、そんな人生を狂いなく歩める者は聖人か狂人のどちらか…来空氏は前者だろう。
「───他になにかありますか?」
荒垣による聞き取りが終わり…夫妻から聞きたい事、それが偽りかどうかも調べ終わった。
さりげなく荒垣が夫妻が嘘をひとつも述べていない事がわかった。
事件当日、来空氏の手記の内容、夫妻が息子と夜天羅氏が帰ってくると信じている事。
……しかし俺は覡 宗高氏の様子に違和感を覚える…未来を知っていた者は未来へ依存をしてしまう。
知っていないと不安だからだ、未来を知っていた彼にとっては突如、暗闇に放り込まれたに等しい。
「……いつに帰ってくるかは記されていないんですよね?」
「えぇ、そうですよ。いなくなる日のみです。」
「なぜ…確信が持てるのですか?」
「二人を…なにより夜天羅ちゃんを信じているからです、彼女は必ず連れ帰ると約束をしてくれました。」
夜天羅…厄災を宿した鬼の女性。
その邪気で俺たちどころか覡夫妻ですら直接会う事ができない中でこの信頼。
過去には俺たち妖霊管理機構も接触を試みようとしたが不可能だった。
現行の妖術具では邪気を防ぐ事はできない、アレは妖力とは別のナニカだ…覡 縁継の神威以外で防ぐ他はない。
画面上でしかコミュケーションを取れなかった。




