第七十二録:狂進する獣 三節「開戦」
「ゴァァァッ!!」
人型の雄叫びが開戦の合図となり敵も俺たちも一斉に動き出す。
「ベリルさん!ラグナ!あの首無しはデュラハンだ!胴体に埋め込まれた頭部を破壊しないと倒せない!」
「了解!」
二人の声が重なる、首無しは二人に任せて俺は人型と対峙する…血走った瞳はただひたすらに執拗に俺を狙う、そこには俺への憎悪すら感じる。
「誰の差金はまぁいい、だがこのままならお前を斬り捨てる。」
相手が圧倒的な憎悪を向けるなら俺は圧倒的な殺意を持って迎え撃つ。
「ガァッ!!」
脅しは虚しくもその狂気には微塵も届く事ははなかった、人型は血を撒き猛進しその巨腕を振り下ろす。
「遅い!」
刀をその巨腕へ向ける、滑る様に肉と骨を両断して前腕を斬り落としその前腕を全力で蹴り飛ばす。
今まで再生や回復持ちばかりと戦わされて来た。経験上、再生部位がない方が時間がかかりこちらが優位になる。
「ガッアァァッ!!」
経験上の通りにやはり再生が遅い…だがそれは部位がある時に比べてだ。
「ゴァ!!」
痛みなどどこ吹く風で左腕による追撃…俺はそれをいなして無防備な首目掛けて刃を突き立てた。長期戦は無用、短期戦に越した事はない。
「コハァッ!ッ!!」
「なっ!?」
完全に首を捉えて両断をした…しかし人型は生きている、不可解だ。
肉を、骨を斬った感触が確かにある…斬ったそばから再生される可能性を考えてわざと雑に斬った、何より目視で確かに首と胴体が離れたのを確認した。
しかしそれでは倒せなかったすぐに首と胴体が磁石の様に引かれ合い再生。
「ガァッ!!」
「ちっ!」
今の間で右腕が再生されて両腕による激しい攻撃を始めた、俺は無理に深追いはせずに一度距離を離す。
再び対峙する、人型が猛進してくると警戒していたが様子がおかしい。
「フーッ!フーッ!」
息を荒くしてより激しくボタボタと血を流す…血溜まりの中心で動かずにその狂った目だけが俺を捉え続ける。
「大した執念だ。」
何が奴を掻き立てるのか不明だが…恐らくは教会か降魔礼讃の差金だろうと予想がつく。
「さて…どうしたもんか。」
まずは奴の謎を解く必要がある。
首の謎さえ解いて仕舞えば倒す事は簡単だ…しかし手掛かりが、今は情報が必要だな。
刀を構えて人型を見据える…荒くしていた息は治り出血も穏やかになった。
「ゴガァアァッ!!」
変わらずの猛進振り、知性のかけらもないフィジカルに任せただけの攻撃。
「ワンパターンだぞ。」
俺を狙う腕に対して刀ではなく打撃で対応、人型の腕を弾く、膂力はこちらが上…あれだけの筋肉を搭載しておきながら尚且つ魔力を使って俺より下。
「……十全に扱えてないのか。」
答えは一つ分布相応、この一言に尽きる。
俺を超える筋力も魔力もある、がそれを生かす土台のなにもかもがあまりにも足りない。
ただあるだけ。




