第七十二録:狂進する獣 一節「懐剣」
「ここだね。」
ラグナが立ち止まりとある一室の扉を開けた、その中はずらっとロッカーが並ぶ場所。
「助かった、じゃあ探すか。」
「そうじゃな!すぐ見つかれば良いのう。」
「私たちは念の為に外を警戒しておきます。」
「任せてください!」
「ありがとうございます。」
ベリルさんとネーメルさんは扉の前あたりで待機、俺と夜天羅にドロシーそれにラグナが部屋の中へ侵入。
内部のロッカーは正方形の枠が大量に並び丁寧にネームプレートで日付と物品名が記されていた…研究職だからだろうか几帳面に整理されている。
俺たちはそのネームプレートを頼りに目的のものを探していく。
「いっぱいじゃのう!」
「いっぱいー!」
それからめぼしいロッカーを開けていくも空振りが続く。
「お、これじゃないか?」
ネームプレートには"懐剣"と書かれていた、俺が知っている物と同じならこれは日本の物になる。
期待を込めてそのロッカーを開けると──
「夜天羅、当たりだ。」
「おー!本当かの!」
ロッカーから取り出した物を夜天羅へと手渡す。
「これは…懐剣かのう。」
中にはネームプレート通りに懐剣が入っていた、これは神前式などで白無垢に使う小物。
房付きの短刀で主に魔除けや厄除けを目的とした御守刀だ。
白無垢に似合う純白の房付きの刀袋。
「………ずっと思っとったんじゃが。」
「どうした?」
来空の漂流物になにか思うところがあるのは感じ取っていた、俺に話してくれるという事は夜天羅の中でこの数々の漂流物に対して結論が出たのかもしれない。
「全部が婚姻式に使う物じゃなかろうかの?」
「そう言えば…」
思えば関連する物ばかりだ、日常的に使える物だが…懐剣が決定付けた、これは──
「婚礼丁度か?」
「来空なりの、じゃな」
そう、本来の婚礼丁度は一般的には木箱へ収められている物でこの懐剣は一般的ではない。
「なら、ちゃんと全部貰わないとな。」
「うむ!」
夜天羅は大事に懐剣を仕舞う、それから目的を果たした俺たちは保管庫の外へ。
「んー!外の空気はやはりよいのう!」
「すっきりー!」
淀んだ空気から一変して深緑の空気が俺たちを包み込む、外はまだ明るく葉の隙間から光が溢れている。
「ベリルさんとネーメルさんも目的は果たせたんですっけ?」
「はい!」
「塔で起きた事の全てが貴重な資料となります、これを元に今度は大規模な調査ができるでしょう。」
よかった、二人の目的も果たせた様子、ならもうここに用事はないだろう。
「じゃあ…帰りますか。」
目的を果たした俺たちは来た時と同じ道のりを進み始める、先頭はベリルさんとネーメルさんでしんがりは俺だ。
次々とビルを飛び越えていた──その時だった。
「お前様!!」
夜天羅の一声が響く、それは危機迫る声色…俺はすぐさま抜刀していた刀を構える。
「ゴァァァァァアアァァァッ!!!」
左から凄まじいスピードで突進を繰り出すは獣の様な…恐らくは人だが風体は悍ましいの一言。
膨張しすぎた筋肉に皮膚がついていかない、僅かな動きで避けては修復を繰り返して血塗れ。
「っ!?」
さらに右から異様な気配を感じる、視線を気配に向けると首のない巨大な四足の獣を視界にとらえた…….俺狙いの挟み撃ちか。
「ヨリツグさん!!」
ベリルさんが支援に来てくれようと急いで踵を返すも間に合わない。




