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異世界帰還録  作者: 夜縹 空継
第一章:旅立ち
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第八録:達者で 一節「鬼の目にも──」

遂に旅立ち当日の朝を迎えた。

護衛の馬車への集合時間は夕方。

それまでに最終の確認と準備の予定。


いつも通りリビングで朝食を貰う。

リグレさんとセイナさんはいつも通り、ただ…

やはりリリーちゃんは元気のない様子。

「……のう、リリーこの後ちょい外に散歩でもどうじゃ?」

リリーちゃんの様子を見て夜天羅が声をかけた

彼女は目線で俺に謝っていた。

この後、準備を手伝えなくなるからだろう。


「いいの…?」

俺と夜天羅を不安げに見つめるリリーちゃん

たまに暴走したりする子だが基本的にはいい子で人のことを思いやれる。

だから今日が忙しいかもしれないと感情を押し込んでいる

「大丈夫だよ、行っといで、準備は終わってるから」

少しの嘘をつく

俺がそう言えばリリーちゃんの顔は少し明るさを取り戻す。


「どうじゃ?」

「うん!行く!」

その後はいつも通りのリリーちゃんに戻る…

しかしどこか無理をしている印象を受ける

俺の思いとは裏腹に朝食を急いで食べ始めてすぐに完食。

「準備してくる!」

足早に部屋に行くリリーちゃん

今日ばっかりはリリーちゃんの行動をセイナさんは多めに見ていた。

程なくしてドタバタと音を立てて戻ってきた


その間に朝食を終えていた夜天羅は席を立ち、リリーちゃんの手を取る。

「じゃあ、ちと行ってくるのじゃ」

「行ってきまーす!」

二人は笑顔で家を後にした。

「…ありがとうございます、娘の為に」

「いえ、二人にとっては必要な事です」

「リリー大丈夫かしら…」

セイナさんは親心から心配が絶えない様子

こればかりは夜天羅、いや2人次第。


二人が外出している間に諸々の準備を済ませて

借りていた客室を綺麗に掃除した。

うにゃ…にゃんにゃ

朝ゴハンを食べたコイスケは日の差す窓際で

寝転びウトウトと眠りこけていた。

そんなコイスケのそばにある椅子に座り撫でる

ゴロゴロと喉を鳴らす、部屋には穏やかな時間が流れる。


──暖かな体温を感じる小さな手を取る

隣には笑顔で歩く少女。

わしにできた小さな友人…

しかし今日でお別れをしなくてはいけない。

次に会うことは恐らくない、今生の別れ。


どうしても重ねる…亡き来空…恩人にして初めての理解者

来空と過ごした日々はわずか一年だけだった。

その一年でわしは一生分の救いを受け取った

今は…与える側に立っている。

わしは…この少女に何を贈れるだろうか?


「わー!真っ青!」

晴天、雲のない空には澄み渡る青が広がる

リリーと訪れたのは村から少し離れた丘。

以前、みなでピクニックをした場所。

自然と足がここに向いていた、無邪気なリリーは笑顔で走る。


…ずっと、笑顔を絶やさない。

きっと…無理をしている、あの子は優しい子

最後は笑顔で別れようとしている。

だが無理をしているのは明白

母との約束を守ろうと幼いながらに頑張っている。

そんな姿に目頭が熱くなってしまう

いかんな…リリーは我慢していると言うのに

でも、する必要はない。


「リリー」

「なにー!」

名を呼ぶと小さな身体で走ってこちらへやってくる

わしはしゃがみリリーの高さに合わせる

眼前まで来たリリーをわしは──

そっと抱きしめる。


走ったせいか高い体温、柔らかな髪を精一杯優しく撫でる。

急な出来事に唖然とするリリー

「大丈夫じゃよ、無理せんでもいい」

「……してないもん」

リリーは自分の服の裾を両手でギュッと掴む。

顔は見えない、伝わるのは我慢する様な体の震え。

「や、やく、そくしたもん!」

「今は誰も見とらんよ…二人だけの秘密じゃ」

その言葉でリリーの感情は決壊した、もはや止められない雨の様な涙。


「うわぁぁあぁん!せっ、せっかく、なか、仲良くなれたのにぃぃ!!」

「そうじゃな…仲良くなれたのにのう…」

わしの瞳からも涙が溢れた。

どうしようもない感情が涙とともに溢れてくる

青空の下、二人にだけ雨が降り注いでいた

だが…雨は必ず止む。


しばらく抱き合い二人は涙を流した

次第に落ち着き涙を止めてお互いを顔を見た、泣き腫らした赤い目元。

それがなんだかおかしくて二人して笑ってしまう、憑き物が落ちた。

リリーの無垢な笑顔が眩しい。

「…ほれリリー、コレをやろう」

「?」


リリーの右手を掴み手のひらに乗せたのは勾玉

元はわしが身につけていた首飾り。

首飾りの三つある勾玉のうちの一つを

腕輪にして身につけれる様に紐で編んだ物。

「リリーにやる、お揃いじゃ」

わしは首飾りを指差す。


にんまりと心底嬉しそうな顔をする

この顔を見ると贈った甲斐があると言うもんじゃ

「!!ありがとうおねーちゃん!私からもこれ!

 旅のお守り!おかーさんが教えてくれて一緒に作ったんだよ!」

差し出されたのは木彫りの首飾り。

セイナどのの教え…この地域のお守りだろう

少し不恰好なお守り、それはわしにとっては最高のお守りになった。

これがあれば安全に帰れる、そう思った。


「ありがとうリリー」

「お姉ちゃんも!」

立ち上がり再び手を繋ぐ、二人で空を見た、変わらずの青い空。

「さぁ!帰ろうかのうリリー」

「うん!」

心晴れやかな少女と鬼、二人は手を繋ぎ帰路に着く。

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