第八録:達者で 二節「おめかし」
「ただいまー!」
リビングで昼食の準備を手伝っていると元気な声が響いてくる、帰ってきたリリーちゃんに視線をやるといつも通りの元気な様子が見てとれる。
次に夜天羅を見ると彼女もすっきりとした晴れやかな面持ちをしていた、夜天羅の首元には見慣れない首飾りがありリリーちゃんの腕には見慣れた勾玉。
「リリーおかえり」
「おかえりリリー先に手洗いにいっちゃいなさい」
カルステ夫妻もリリーちゃんの変化には気がついている様子。
「おかえり…よかったな夜天羅」
「うむ…上手くいったのじゃ」
愛しむ様に優しく首飾りに触れる、その様子に俺は微笑ましい気持ちなった。
「夜天羅、ご飯にしようか」
「うむ!」
朝食時とは違い、いつもの団欒を過ごすカルステ一家との最後の団欒それは驚くほどにいつも通りだった
当たり前の様に流れる時間は心地よい、食事も終わり一息ついていた頃。
リグレさんは席から立ち上がり俺と夜天羅に声を掛ける。
「お二人とも私どもが製作した服を受け取って欲しい」
ついに…楽しみにしていた服とご対面、リグレさんは大層こだわってくれていたみたいで完成したのは2日前と直近だ。
「ありがとうございます!」
「ありがとうなんじゃ、たのしみじゃな」
「では部屋に案内いたします。」
俺たちは採寸の時と同じく別室に案内される。
にゃうぅぅ……
コイスケはなぜか前と違い夜天羅側へ。
「どうぞ」
リグレさんは扉を開けて中へ案内され目に飛び込んできたのは綺麗な衣服それは木製のトルソーに飾られ袖を通されるのを待っていた…その中で一番目を引いたのは────
「黒い…長羽織?」
どう見ても着物の長羽織だ。
…なぜリグレさんが知っているんだ?もしかして羽織も俺らの様な異邦人から伝来したんだろうか?
「これ…どうしたんですか?デザインもこの世界の物と違っている気が?」
「あ、この上着ですか?今回の制作のメインです、ウルシヴの毛皮を余す事なく使用した一品になります。」
「デザインはですね、過去に一度だけ八重ノ島の服を拝見したことがあるのですが…お二人に似合うと思ってですね」
八重ノ島か…日本刀もそうだがどうやら相当に博識なもしくはかなり歳のいった人物が異邦人として来たんだろう…
「ウルシヴと言う変異個体を素材にしたのでこの上着は自然魔道具になっています」
「自然魔道具?」
「この様な個体を素材にした際その素材の段階ですでに魔法的効果があります、死してなお能力を失わないのです」
という事ははウルシヴのあの効果があるのか…無音での行動、これは何に対しても優位だ。
「こちらの服も頑丈な素材でできている服でして通気性も良く適温を保ってくれます、それから──」
長羽織の下に着る衣服の説明に移るリグレさん、カットソー、ズボン、上着の一式があり全てがリグレさんの手作り。
説明をするリグレさんは活き活きとしているその様子からこの人が本当に服が好きなんだと伝わってくる。
「あと、こちらの靴は知り合いの魔道具技師に製作して頂きました、魔物の素材と鉄で作っているので頑丈、それに自動で足に合わせてくれます」
「ありがとうございます…ほんと良いものばかり」
「いえいえ、お二人に頂いた王族の紅に比べれば…」
「お二人の技術に対してもですよ。俺、普段は服に無頓着なんですがそんな奴でもこれらがすごい逸品なのはわかります」
「嬉しいですね…テーラー冥利に尽きますでは、早速着てみてください。違和感があればこの場で修正します」
リグレさんに促されて衣服を手に取るその時。
「やっぱり!おねーちゃん!!おっぱ…むぐぅ!?わぁ!コイスケくんなにするのー!?」
どうやら…コイスケに発言を途中で止められたまさか、この為にあっちについて行ったのか?
リグレさんと顔を見合わせると互いにおかしくなり少し笑ってしまう。
「おお!よく似合っていますよ。やはり八重ノ島の服で正解でしたね」
日本でも服屋によく言われる"似合ってますよ"にこんな心が篭っているのは初めてだ。
「服に対しての魔術は繊維の強化とある程度の自己修復をほどこしています。」
どうやらこの文字の刺繍が術式になっている様だ、つくづく便利だな…
「どうですか?サイズ以外に違和感などはありませんか?」
軽く動いてみるが快適すぎるくらい快適だ、刀を腰に下げていてもズレもしないウエストポーチも開けやすく取りやすい位置にある…完璧、そう言わざる得ない。
「すごいですね…何の違和感もないです、動きやすいし快適ですよ!」
「よかったです、やはり服に袖を通す場面に立ち会うのはよいです」
まるで子を送り出す様な慈しむ顔をしているリグレさんある意味では本当に子供だ。
するとノック音が響く
「開けていーい!!」
リリーちゃんの元気な声が響くどうやら夜天羅のほうが早く準備が終わったようだ
「いいよ」
俺は短く返答を返す、すると勢いよく扉が開いた、元気がいいな。
視界に入ってきたのは───着飾った夜天羅。
同じ長羽織を着て中の服も俺と対になる様なデザインをしていた、ただ一つ違っていたのは首に巻いた赤く長いマフラー。
──綺麗だ、見惚れてしまう…旅をするはずの衣服だがリグレさんのおかげで機能とデザインが両立している。
「似合ってる、綺麗だ」
「んふ、ありがとうなんじゃ、お前様も格好良いぞ」
うにゃん!
「ありがと」
「わーすごい!夫婦みたい」
「リリーちゃんもありがと」
「夫婦じゃよ」
嬉しかったのか夜天羅はリリーちゃんの頭を撫でる撫でる。
……一つ気になった事をリグレさんに問う。
「リグレさん、あの赤いマフラーって?」
「えぇ、クリムゾンヴォーパルの物になりますが大丈夫です、私達が使う分には支障はないですよ」
リグレさんは俺が言おうとした心配事を察してから先んじて大丈夫だと告げられた。
「ねーねー!おかーさん、おとーさん!写真撮ろうよ!」
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