余談「滴る雨と踊る雨音に誘われて。」後編
夜天羅はそう言って足元を指差す。
足元?俺は疑問を解消する為にも視線を下に向けた。
「うおっ!?なんだこれ!?」
そこにいたのは謎の生物?けむくじゃらで小さい、一見すると猫に見えるが違う…耳はなく細長い躯体をしていた。
その生物?は俺の脛に身体を擦り付けている。
「な、なんだこの?なんだ?」
「珍しいのう!そやつは"すねこすり"じゃ!」
「あの妖怪の?」
俺の視線に気がついたのかすねこすりが上を見上げて毛で覆われた顔と目が合う…多分合っている。
目が合って辞めるかと思いきや俺を一瞥して脛に身体を擦り付けを継続した。
にゃうぅ……にゃんにゃ??
コイスケは恐る恐るすねこすりに近づき匂いを嗅いでいる。
にゃ!にゃん
無害と判断したコイスケは離れた場所の座布団で丸まって寝始めた。
「これ…俺はどうすれば?」
「うーむ、無害なヤツじゃしここへ来たのもたまたま雨宿りしに来たんじゃないかのう?」
「えぇ?すねこすりって雨の日に現れる妖怪じゃないの?」
確か…昔見た本でそんな事が書かれていたと幼い頃の記憶を掘り出す。
「ほどほどの雨の日が好きで今日の様な台風じゃと基本的に樹木のうろなんかに身を寄せるが見たところ幼い子じゃ、雨にはしゃいで出て来たものの雨風が強くて困ってたんじゃろう。」
「な、なるほどなぁ……ん?」
このすねこすりは妖怪だ、夜天羅の邪気の影響を受けてしまうはず…しかしその様子は見られない。
「なぁ、こいつは妖怪だよな?邪気は大丈夫なのか?」
すねこすりを避けつつ腰を下ろして畳の上で胡座をかく、すねこすりは俺が座るや否やまたすねに頭で脛を撫でる。
「まぁ妖怪という括りではあるが霊体に近く精霊みたいなもんじゃから影響は殆どないじゃろうな、身体がちょっと重いくらいじゃないかのう。」
「それならいいけど。」
夜天羅の落ち着き具合から何もないと思っていたがそうか霊体か、気が付かないわけだ。
まだ解魔ノ瞳が戻って日が浅い、霊体の気配がよくわかっていない。
「なぁ…なんですねこすりって俺らの脛を擦るんだ?」
そう夜天羅へ問うてみる、純粋な疑問。
意味はあるんだろうけどその意味に想像が及ばない。
「食事が表現として近いかのう、気が付かれない様に脛に身体を擦り付ける事で人から微量の妖力を吸収しつるんじゃ。」
「へー………それにはずっと擦り付けてない??」
俺が座る前からずっと擦り付けている、もう
十分は経っている。
「お前様の妖力が美味しいんじゃろな、神威持ちの妖力なんてすねこすりからすればご馳走じゃ。」
「ご馳走かぁ…」
悪い気はしないが複雑な気持ちになる、それにしてもこれだけ擦られているにも関わらず感覚がない。
けむくじゃら….…なんとなく撫でようとその身体にふれようとした。
パシッ…前足で手を払われ「何すんだコイツ?」みたいな表情で俺を一瞥してやれやれとまた脛を擦り始めた。
「コ、コイツ!!」
「わはは!ま、こやつらからすれば身体を撫でられるは妖力を獲られると同義じゃからの!」
笑いながらも俺が拒否された事へのフォローをしてくれた、拒否された理由も納得がいき小さな怒りは霧散する。
それから…すねこすりは俺たちと一緒に過ごした、俺の脛を擦らない時は部屋で適当に寛ぎたまに脛を擦りにくる。
なんとも太々しく図々しい有様だったが見た目の愛らしさのおかげか嫌悪感はなかった。
雨が弱まった夜に外の気配を察したすねこすりはいそいそと玄関に向かう。
「お、帰るみたいじゃな」
「しゃーない…扉開けてやるか。」
夜になった事もあり夜天羅と二人で玄関に行ってやるととが開けられるのを待つ。
「はいはい…開けてやるよ。」
「もう嵐の日には気をつけるんじゃよ〜」
戸を開けて二人で見送る、外に出たすねこすりは少し歩いた先で振り返り俺たちへぺこりと頭を下げて林へ歩みを進める。
「……あれで許せるの俺はちょろいのか?」
しとしと降る雨を見てそう呟く、誰に言うでもない独り言が雨に流れて小さな訪問者と消えてゆく。




