第七十録:接続 四節「君にも。」
「……本当か?」
甘い…甘い甘言かもしれない、確かにこの場で電子世界に精通しているのはラグナしかいない。
ラグナは善良だろう、だが手放しで信用できない理由がある…それはオレイカルコスに乗っ取られていた事だ。
本当にオレイカルコスに余裕がないのならドロシーの援軍になる、しかしまたラグナが乗っ取らたら?敵を増やすだけでドロシーが戻ってこれないかもしれない。
「信用…して欲しい、必ず連れ戻してくる。」
「っ……」
「お前様。」
隣の夜天羅へ視線を向けた、彼女はその瞳が悩んでいた俺を決断させた。
「頼む、ドロシーを連れ戻してくれ。」
「必ず。」
ラグナはそう言ってうなじ辺りからコードを取り出してコンピュータへ接続をした。
───「うわーっ!!」
「中々に…耐えるじゃないか。」
逃げるドロシーと引き込もうとするオレイカルコス綱引き状態だった。
だが…危ういのはドロシー、オレイカルコスはただただデータを消していくという簡単で強力な破壊行動。
それに対してドロシーは常にデータを大量にコピーを防波堤にする事で耐えている。
「この電子世界には誰も助けになど来れない、諦めろ。」
「やだ!!」
「最終勧告だぞ、お──」
「や!!だ!!!」
ドロシーはオレイカルコスの言葉を遮り言葉を被せて強く拒絶をした、その強い意志にオレイカルコスは押し黙るしかなかった。
「そうか…なら俺を消してレーヴァテインの顕現を奪い外の奴らを皆殺しにしよう。」
「ぅあっ!?」
データ削除のスピードがさらに速くなった、ドロシーのコピーが追いつかず保護がジリジリと削られてゆく。
「うぅぅぅっ!!」
決死の抵抗を続ける、がどれほど持つかわからない状況にドロシーは焦り泣き出しそうになる。
まだ…幼いドロシーにとって味方もいない孤独な戦いは過酷すぎた。
「あっ…!」
その時、ドロシーに聞こえてきたのは外から自分を呼ぶ二人の声だった。
必死に呼びかけてくれる声はドロシーから孤独を掻き消して勇気を与えてくる。
「ま、負けない!!」
(なんだ…!急にデータコピーの速度が増した!?なにが!?)
機械だけでは消して成し得ない魂を持つドロシーだからこそ限界を越えれる、再び拮抗状態に戻り焦るオレイカルコス。
(データが無くなれば不利になるのは俺だ!その前に奴を引き摺り込み消さ──)
「それはできないよオレイカルコス。」
「ッ!?お前は!!」
ドロシーの後ろから声、その姿を見たオレイカルコスは驚きを隠せない。
「ラグナだ!?」
「ハ、ハハハハハハッ!!また俺に支配されにきたのか!」
一度は完璧に乗っ取りをした相手にオレイカルコスは嘲笑を浴びせた。
「そうだね…対策をしていなければ。」
「対策だと!?バカを言え!!あれだけあっさりとハッキングされてなにを!」
「一つ勘違いをしているよ、僕が君に支配をされた状況を思い出してごらん。」
「貴様をハッキングした状況───ッ!!まさか…メサイアプロテクトを発動していなかったとでも言うのか!?」
予想外の発言にオレイカルコスは驚愕の表示を浮かべていた、ありえないそう言いたげにラグナを見上げる。
「少し違うかな、万全な状態じゃなかっただけさ…君は完全なメサイアプロテクトを突破出来たわけじゃない、ここまで言えばわかるよね?」
「ッ!!貴様ァ!!」
オレイカルコスは恨みを殺気を込めて睨みつける、それしか出来ない自分に怒り、自身へ憐れみを向けているラグナへ怒りを。
「さぁ…行こうかドロシー、外で君を待っている人がいる。」
「うん!!」
「このまま逃すと思っ───」
「無駄だよ…完全に起動したメサイアプロテクトは電子世界に置いて完璧な不可侵領域、万全な君ならともかく今の君じゃむりだよ。」
「ッ!なぜ人の味方をする!解せない!あんな仕打ちをされて!!」
「君にも…有り得たかもしれない。」
「は?」
オレイカルコスは噛み合わない返答に理解が及ばない、ラグナが何を言っているのか…ただ変わらず憐憫を向けている。
「人の優しさに触れる事が出来たなら…君にも違った未来があったかもしれない。」
「なにを!"かもしれない"は無意味な話だ!人は醜い!そう学びそう判断してそう確定した!!」
「そうだね、そうだったね…じゃあ…さよならだ。」
「!?」
突如として…オレイカルコスの身体が崩れ始めた、本人でさえ気が付かない静かな崩壊。
「メサイアプロテクトを君にも与えた、その結果だよ。」
「謀ったなァッ!?」




