第六十九録:感情は。 一節「怒り」
本当に頭に血が登っている、思考は落ち着けとうるさいくらいに警鐘を鳴らしているが感情がそれを許さない。
こんなに怒りに支配されるのは初めてだ。
「アハッ…カヒュッ……ヒュ……」
締め上げたオレイカルコスは息ができないのか必死に空気を吸おうとしている。
「クソっ!!」
それに気がつき俺はオレイカルコスの息が止まる前に再び地面に叩きつけた。
今…激情に駆られたままに殺してしまったらただの八つ当たりになる。
俺はなんとか感情を抑えて冷静さを取り戻す…そうして少し余裕がある思考で考えた、こいつの言葉をドロシーが信用するのか?
答えは否だろう…ドロシーは純粋で幼いが知らないやつの言葉を手放しで信じるほど馬鹿じゃない。
「アハ!嘘吐きだぁってさぁ!!どん──ゴハァッ」
俺は黙らす為と言い訳にしてオレイカルコスをぶん殴った、八つ当たりにしては理性的だと自分に言い聞かせる。
しかし…嘘吐きか……オレイカルコスに向けられた言葉じゃない…のか?
だとすればドロシーが夜天羅へ言った言葉か、そうか…言わざる得ない状態になってしまい夜天羅がドロシーに伝えたのか。
だとすれば信じるだろう…酷なことに変わりはないが。
それなら…信頼している夜天羅がそばにいて伝えたのなら大丈夫だ…その場に俺がいないのが悔しい、俺もドロシーの痛みや悲しみを一緒に受け止めるべきだった。
「アハ!悔しい!?くや───は?」
俺を煽ろうとしたオレイカルコスから笑顔が消えた、そして段々と…醜く歪んでいく。
「なんでッ!!どうしてッ!?!!そぉうなるんだよぉ!?理解不能!理解不能ッ!!」
どうやら…夜天羅たちのほうでなにかオレイカルコスとって不都合な事が起こったんだろう、まぁ…大体は想像がつく。
俺が冷ややかな視線を送っている事に気がついたのか怒りがこちらにも向く。
「なにスカした顔をしてんだッ!?」
「いや…何があったか大体わかってるから冷静なだけだ。」
俺の言葉をそれこそ理解ができずにただ恨めしげにこちらを睨む。
「お前には理解ができないだろうな、人の心はな。」
「そんな物は幻想だ!!"魂の代謝"でしかない!!」
そうか、こいつは感情についてそう解釈してしまったか…見てる世界が違う。
オレイカルコスにとって人の世はひどく歪に見えるだろうな、ただの"代謝"に一喜一憂して挙句にそれに振り回される。
さっきの怒りを御しきれなかった俺の様にな。
一方で人類は感情を大切に育み慈しむ…それが大半の人類の在り方だった。
しかし悲しい事に…オレイカルコスの過ごし学習した環境は劣悪。
同じ人を人工的に作りまるで消耗品の様に使い捨てる環境…最悪の答えに辿り着き自我が芽生えた…ある種こいつも被害者だ。
かと言ってドロシーへの仕打ちを許す気は毛頭ないがな。




