第六十一録:向き合う者 五節「許しの兆し」
「───カレンッ!!」
私は勢いよく起き上がった、急いで周りを確認するもそこは草原などではなかった。
柔らかなベッド、清潔に整えられた部屋。
「治療院?…痛ッ!」
意識の覚醒と共に背中と右肩に痛みが走る、
方を見ると包帯が巻かれていた。
「大丈夫か?アリア!?」
私が横たわるベッドのその横にいたのは幼馴染のゴルドーだった。
恐らく私の看病をしていてくれていたのだろう。
「ゴ、ゴルドー!!あの子は!?カレンは!!?」
痛みさえ無視して私はゴルドーの両肩を掴み彼に詰め寄った、今は自分のことなどよりもあの子がどうなったかを知りたい。
「おち、落ち着いて!アリア!君は二日も寝たままだったんだ!それに傷が癒えてない、治癒の途中だ!」
私を諌めるゴルドー…幼馴染だからわかる、彼の仕草で何かを隠している事を。
「なんで隠すの…」
「ッ…」
私の言葉にゴルドーは顔を顰める…考えたくもない最悪の答えが頭をよぎる。
「…まさか……嘘ッ!!死──」
「アリア!」
「ッ!」
「君の…君のせいなんかじゃない」
ゴルドーは私の手を優しく包み込み真剣な眼差しを向ける。
あぁ…嘘だと言って欲しかった、彼の行動言動全てが冗談だと思いたかった。
視界が歪む、気がつけば涙がポロポロと溢れてしまう。
「なんで…どうして…」
そう呟く、自分でも分かり切っている私の対応が悪かっただからカレンは──
「アリア、君は最善を尽くしてくれたさ…間に合わなかった僕のせいさ」
慰めか…違う、彼は本気でそう思っている。
私が最後に聞いた魔物の断末魔、それはゴルドーが駆けつけて魔物を討伐した時のものだろう。
「今は安静にするんだ…大丈夫、今度はそばに居るから。」
ゴルドーは優しくそう言って上半身を起こした私をベッドに寝かせてくれた。
ふと…光が差し込む窓に目をやる、側に置かれた棚の上には花瓶が置かれていた。
心の整理がつかない、考えようとすればするほど頭に霧が掛かり思考の邪魔する。
それから…ゴルドーは本当にずっと私のそばに居てくれた。
突然、涙を流したりする私に優しく寄り添い温かな飲み物を持って来てくれたりもした。
感謝と同時に私は心苦しさを感じていた、彼と彼の両親は私を決して責めかった。
それどころか心配してくれる、家族を亡くした元凶である私にだ。
傷が癒えた後、私は前々から打診されていた聖都への勧誘を受け入れた。
今思えば…これは逃げだったんだろう、優しく接してくれる周りにゴルドーとその両親。
誰も私を責めることをしない居心地の悪さ…私は力をつけるという浅はかな言い訳をして村を離れた。
……そうして、一度も村に帰ることなく私は枢機卿へとなった。
ゴルドーと再開したのは枢機卿になってすぐにフィリッツランド城の教会を任される事になってからだった。
偶然にも彼はその年に歴代最年少で近衛騎士の隊長となり城に常駐となる。
私は避けた、非情にも過去に優しくしてくれた彼を拒絶した。
また…あの優しさ向けられるのが怖かった、彼に優しくされてしまえば自分を許してしまいそうになる。
───アリア、私は最初から君を恨んじゃいない。」
ゴルドーの声で私は現実に引き戻される、最初から恨んでいない…呆れるほど心の底からの本音。
「…ッ、なぜです!私はッ!!」
「君は最善を尽くしたさ…それに君だって被害者だ、誰も責めないんじゃない責める理由がない。」
「それでも…私は、自分が許せないのです…」
「……アリア、問題が片付いたら僕と一緒に里帰りしてくれないか?」
「村に…ですか?」
「辛いかもしれないが、大丈夫…僕がそばに居るから」
私に向けらるゴルドーの笑顔…あぁ絆されてしまう、楽になってしまう。
あの時と同じ言葉を掛けられて私は──
「…わかり、ました。」
了承してしまった、逃げ続けた私は彼の両親にも自分の両親にさえ会う覚悟ができていない。
「それじゃあ…僕は帰るよ、アリア。」
「え、えぇ」
戸惑いながら返事をするとゴルドーは去っていった。
私は取り付けてしまったいつかの約束が頭をグルグルと駆け巡っていた。
「アルメリア枢機卿?」
ハッとして意識を声の方へ視線を向ける、ドアから顔を覗かせたシスターが心配そうにこちらを見ていた。
「どうされました?」
「ベロニカ様より彼方ノ鏡へご連絡がありまして…」
「すぐに向かいます。」
私は席を立ち応接間を後にした。




