第六十録:妖精の国へ 一節「また、いつか」
その日の夜、夜天羅はいつもの様に俺の隣に座るが雰囲気や態度が違う、いつもなら明るく腕を絡ませてきたりするものだが…。
原因はおそらく来空の手紙だろう。
俺は夜天羅の手を取り彼女からの言葉を待つ。
「お前様、一緒に見て欲しいのじゃ」
そう言って取り出した手紙…過去から未来へな手紙、夜天羅からすれば恩人の遺言書に近い。
「もちろん」
俺には夜天羅の過去の気持ちはわからないしわかるなどと軽く言えるはずがない。
できる事は寄り添うこと、夜天羅の辛い道のりを歩むなら俺は隣にてその道を一緒に歩いていきたい。
「ありがとうなんじゃ…」
軽く俺へ体重を預けてくる、そして一瞬だけ躊躇したが夜天羅は手紙を広げる。
"お久しぶりですね、夜天羅。
私にはそちらの様子は分かりませんが…夜天羅、貴女はいま悩みや葛藤を抱えているでしょう。
様々な想いが巡り首が締まる様な閉塞感を感じて隣の彼に相談できずにいますね。
貴女らしいです、でも…深く考えずいつもの貴女でいいのですよ、必ず良い方向へ進みます。
心配せずにおいきなさい、貴女の隣の彼と共に。"
「…っ、ほんとに、こやつは…自分のこと書きもせんっ…」
顔を伏せる夜天羅を俺は隣で抱きしめる、小刻みに震える彼女をただただ抱きしめ背中を優しくさすり手を握る。
俺にできるのはこれぐらいだ、夜天羅が落ち着くまでずっと寄り添う。
「ありがとう…お前様、もう大丈夫じゃ」
「ん、そうか」
落ち着きを取り戻した夜天羅は涙を拭うと立ち上がる。
「こやつは!ほんとに人のことばっかり考えおって!少しは自分の事を書かんか!!」
文句を言う夜天羅、その声色は悲しみや嬉しさ怒りと…ごちゃ混ぜになっていた。
「来空っていつもこんな感じなの?」
「そうじゃよ!千里眼で未来が見える故かのう…物事を達観して俯瞰的見る奴じゃ、見すぎているのじゃ」
未来か…そうかずっと見えているんだもんな、この手紙も未来から逆算して送ってきたのかもしれない。
「わしは…ドロシーの事を悩んでおったんじゃ伝えたほうがいいと言っておきながらその実、心の中では伝えたくないと思っておったんじゃ」
夜天羅から吐露される心情…やっぱり辛い経験をした彼女はそう思っていた。
「いいんだ、夜天羅なら必ずどこかで話してくれると思っていたからさ。」
「お前様!」
「ん?…んん!?」
急に抱きつき口づけをしてくる夜天羅、腹いせなのか色々と吹っ切れたのかわからないが…まぁ、いつも通りにはなったな。
────そして日が過ぎこのノウス・ルミナスを去る日がやってきた。
ルーディル一家だけではなく大勢の町民に見送られる事に…新鮮な光景だ。
いつもはこんな風にレーヴァテインをあまり人前に晒す様な事はしないがここではもう知られている、今回はだから森から出発ではない。
「それでは!ヨリツグさん!ヤテンラさん!本当に救ってくれてありがとう!」
「主人を救ってくださりありがとうございます、お二人には感謝が尽きません。」
アレックスさんとシルビアさんの言葉を皮切りにワッと歓声が沸く。
「貴方たちに出会えてよかったです!」
「私は短い間でしたが…良い経験をさせて貰いました。」
オーダイルにカーフスさんも駆けつけてくれた、改めて二人とも握手を交わす。
「ありがとー!」
「また!どこかでねー!」
ウトリとクラリアの重なる声と笑顔、そしてこちらへ大きく手を振ってくれる。
「では…お世話になりました。」
「ありがとうのう!また!」
「わー!!またねー!!」
にゃーん!
俺たちは別れを告げてレーヴァテインを浮上させる、徐々に離れていく人と声。
それを最後まで聞きながら、少しの名残惜しさを残して俺はレーヴァテインを飛ばした。
突発的な依頼だったが…結果的には良い方へ転んでいった、良い人たちとも巡り会えた。
旅としてこの上ない充足感。
次はいよいよ妖精の国フォルスラへ。
胸に期待を込めつつ俺はスピードを上げてゆく。




