第五十九録:行く宛 五節「特権」
「いえ…それだけに使わないと思います。」
カードキーに表示されているのは"3Fライセンスキー"…使ってみない事にはわからないがどこかの施設の3階の鍵になるはずだ。
「お二人の次の目的地はアキレウサスと仰ってましたよね?どうぞその鍵を持って行ってください!」
「え?いや、そんな」
「いいのです!さぁ次を見に行きましょう!」
…アレックスさんは少しも俺たちに拒否をさせないつもりらしい。
夜天羅へ目配せをする、これ以上は絶対に何も貰わないと密かにアイコンタクトを送る。
こくりと頷く夜天羅。
それから蔵を一通り全部見て途中のアレックスさんの甘言をぬらりくらりと躱して蔵の散策を終えた。
なんだかんだと楽しい時間だった、気づけばお昼の時間になっている。
昼食はアレックスさんに誘われてルーディル一家と共にすることにした。
その後…俺たちはアレックスさんの書斎へ向かう、成り行きで受けた依頼。
ギルドを通さない個人取引になる、形式的ではあるが依頼完了の書類にサインをするためだ。
「では…これにサインをお願いします。」
アレックスさんから差し出された一枚の書類…依頼達成と報酬が記載された書類。
俺はそれに迷いなくサインをした、書類をアレックスさんへ返す。
「確かに確認しました、ひとまずの報酬になります。」
俺たちの前に出されたのは高く積み上がったプラチナプレート…しかも同じのが三つもある。
「じゃあ…遠慮なく。」
そう言って俺はプラチナプレートを二枚だけもらい一枚を夜天羅へ渡す。
依頼料を受け取り席を立った。
「!?ヨリツグさん!?ヤテンラさん!?」
「これ以上は受け取りませんよ、依頼書の通り"無条件の報酬"ですから。」
「!!」
恐らく…アレックスさんは俺たちが望むだけ与えるつもりで上限を設定しなかったが下限も設定していない。
「…わかりました。」
契約の穴に気がついたアレックスさんはやられたと言った風な顔を作り椅子に深く座る。
「ただし!!」
次の瞬間にバンッと机を叩き勢いよく立ち上がるアレックスさん。
俺たちはそれに少し驚きつつアレックスがこちらへ向けて一通の封筒を差し出す。
「これは絶対に受け取って貰いますからね!」
「おお…」
その勢いに思わず封筒を受け取る…ルーディル家の家紋を模様した封蝋で閉じられた封筒。
「こ、これは?」
「お二人はアキレウサスに向かうとの事でしたので必然的にフォルスラへ滞在をなさる。
それをフォルスラ国に出せば宿はもちろんあらゆる所で恩恵を受けます。」
「えぇ…」
困惑してしまう…この手紙の重みに。
これはつまり…特権のほかにならない、しかしだ他国であるフォルスラでなぜそこまでできる?
「不思議にお思いでしょう?自国ではなく他国で通用する理由はフォルスラが近いというのが一番です、もうずいぶん昔から友好的に取引をさせて頂いています。」
「なるほどのう」
そうか、自国の他都市や村へ商売するよりフォルスラへ輸出する方がよほど儲かるし危険が少ない、それにフォルスラは友好国と聞く。
これを断ればアレックスさんの顔に泥を塗る事になる、それは俺たちも望むところではない…受け取るしかないだろう。
「わかりました…ありがたく使わせてもらいます。」
「えぇ…存分に使ってやってください。」
──アレックスさんとの話を終えてから俺たちはフォルスラへ向けての準備に取り掛かった、出ていくのは今から二日後。
「いや〜まさかじゃのう」
「あぁ…現金よりも大層なもんだよ」
表面的な価値をみれば現金の方だろう…しかしだ、この封筒にはルーディル家が長年積み上げてきた信頼が乗っかっている。
現金では買えない時間の積み重ね…その価値は計り知れない。
「やらないけど…変な行動はしないようにしようか」
「じゃな〜」
うっかりと言うこともある、ウォルスラいる間は気を引き締めようと夜天羅と決意した。




