第七録:この世界で─ 一節「初依頼」
兵舎を出て道を歩いているとやはり上機嫌な夜天羅は俺の左腕に抱きつく。
「めっちゃ上機嫌じゃんか」
「えー?そりゃそうじゃ!
お前様の格好良いとこを観れたんじゃ、ますます惚れてしまってのう」
夜天羅の発言に気恥ずかしくなるが嬉しく感じるのも確かだ。
あーっと…いつもより体を腕に密着させないで…
色々、柔らかいから…
ある種の暴力が俺の腕を襲う
だが夜天羅を引き離す事なんてしない。
俺も嬉しいから。
時間はまだ夕方前、俺と夜天羅は市場に向かい
旅に必要な物資を調達してカルステ家に帰宅した
家に着く頃には夕陽が村を照らす。
帰宅の挨拶をしていると
にゃんにゃー!
足元でコイスケが俺たちを待ってましたと言わんばりに
俺の足元に擦り寄ってくる、いつもの様に抱き上げ二人で撫で回す。
ゴロゴロ喉を鳴らし目を細めてリラックスをしている様子だった。
俺たちは借りている部屋に向かい荷物を置く
それからは食卓をみんなで囲む。
「リグレさん、セイナさん、俺たちルスティア行き馬車の護衛任務に行きます」
「まぁ、無事に依頼を請けれたんですね!」
「…そうですか、ぜひゆっくりしていってください。」
二人にこの村を去る日を告げる
あえてぼかしたのはリリーちゃんがいるからだ
この子の前で俺たち…特に懐いている
夜天羅がいなくなる事を告げてやるのは酷だ。
だからぼかして両親である二人に判断を委ねる。
「はい、ありがとうございます」
「それまでお世話になるのじゃ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「しますー!」
相槌を打つリリーちゃん。
─時は流れて3日後。
俺たちは深い森の中にいた、ここは村から遠く野宿を
しながら2日半掛けてこの森へやってきた、理由はギルドで受けた依頼のため。
「目的の場所に着いたのう!」
にゃうにゃん!
「だな…さて目的の魔物を探そうか。」
「じゃな!」
俺たちが受けた依頼の内容。
魔物"ドレッドラッシュ"の異常個体の討伐、依頼等級は三等級
森に住む同種の魔物が異常に減少が
確認されて調査をした結果、異常個体による共食いが判明した。
このままではこの森のドレッドラッシュが
全滅をしてしまうため討伐を依頼された。
まぁ…本命は別にあるが…今は依頼に集中しよう。
「にしても難儀じゃのう…暴食と共食いしかできぬとはなぁ」
「それが異常個体ってやつらしいからな…元の世界でも
ないわけでは無かったが…全滅させるほどの勢いでなんて驚きだ」
ギルドでの説明によると異常個体とは狂った個体らしい。
変異個体は一定数いるし
その種族自体に害を及ぼす事はない、現にウルシヴなんかは番がいた。
しかし異常個体はごく稀にしか生まれてくる狂った個体…
共通するのが共食いと常に空腹で貪り食うことしか考えていない事。
「可哀想じゃのう…」
「そう…だな」
森を歩きながら言葉を交わす。
隣を歩く彼女を横目に見た、なにか思う事がありそうな顔をしていた。
…恐らく夜天羅は自身の境遇と重ねているんだろう…
自分も害しか与えない異常個体だと、そう思っているかも知れない。
だがそれは絶対に違う、彼女は理性的だ誰も傷つけぬ様にと人から妖から離れた
決して自身の狂気に身を任せたりしない。
「……」
「わっお、お前様」
「…ほら、危ないし…」
無言で夜天羅の手を握る。
少し照れくさい、それに道は比較的平坦だ危ないことはないただの口実。
ちょっと不器用かもしれないでも少しでも夜天羅に安心してほしい。
「ん、ありがとうなんじゃ」
その後森を歩く事数十分。
まだ目的の異常個体は見つからない
「聞いた話だとかなり派手に走り回っているらしいが…静かだな…」
「うーむ…気配がないのう」
にゃーんにゃ…
「もう少し歩いたら休憩しよう」
「そうじゃなぁ」
コイスケを見ると眠そうな様子が見てとれる、猫は睡眠時間が多い。
それに俺も夜天羅もこの後魔物を討伐する大仕事がある
こまめに休んだ方がいいだろう。
─ドサッ、なにか重い物が落ちる音が聞こえた
音源は歩いている獣道から外れた木々が生い茂る森の中から。
落下音が聞こえるほど近くに何かがいる、俺たちは顔を見合わせて警戒をする
夜天羅は弓を構え矢を引く、俺は抜刀し音源の方へゆっくりと近づく。
次の瞬間、木々がへし折れる轟音が響いた。




