第六録:日常 五節「試合」
ハルタ兵士と対峙する。
「縁継です、よろしくお願いします。」
「ハルタ・ミハエルです、よろしくお願いします!」
互いに握手をしてから数歩離れる、ハルタ兵士の得物はオーソドックスな片手剣とシールド
基本に忠実な構えでこちらを見据える対して俺は深呼吸をして静かに抜刀して正眼に構えた。
「両者、準備はいいか?」
「はい」
同時に返事をした、互いに相手を観察する。
「─始め」
試合の合図が静かに告げられた、ダグラスは後方へ下がりその場には二人だけだが、動かない。俺も、ハルタ兵士も…相手の出方を見る先手を取り自分のペースに持ち込み試合を有利に進めたい。
眼前の相手は全身に魔力を巡らしている。
俺は体質上、妖力…この世界で言う魔力での自身の強化が苦手だ、その代わり解魔の瞳による身体能力の向上がある。
魔力自体は流れている…俺は自分の強化はせずに刀に魔力を流し強化をしていく。
────瞬間、先に動いたのはハルタ兵士。
鎧を纏っているにも関わらずそれを感じさせない動きで俺に接近、剣の間合いに入り上段から振り下ろされた。
ロングソード、日本刀とは違い叩き切るに特化した剣下手に受ければ刀ごと押し潰される、まるで示現流。
俺はすぐさま刀で左に受け流すロングソードは横の地面に爪痕を残し突き刺さりそのまま反撃に刀を左から水平に振るう、ガンッ鉄がぶつかる甲高い音、それはシールドにより防がれ弾かれる。
反応が速い…この業物ならシールドごと切り伏せていた、だができなかった刀のスピードが乗る前に盾で押し出すように防がれる。
ハルタ兵士はすぐ様地面からロングソードを引き抜きモーションの早い刺突を繰り出す。
「フッ!」
その場で左半身を横にして回避刀を上段で構える、当然ハルタ兵士は警戒上段に盾を構える────しかし俺の狙いはそこではない上段に構えたまま、右足で足払う。
後方に控えていたダグラスとファスは真剣な面持ちで試合を観戦している。
「なるほど、ウルシヴを素手で屠ったというのも納得だ。」
「ですね…兵長、ハルタを選んだのワザとでしょう?」
「ハルタは強い、あの歳で単身で三等級だ負け知らずで増長する前に一度負けを経験するべきだ」
「まぁ…ただでさえ田舎勤務に不満を持っているそうですしね、あっ」
「勝負あったな…」
「!!」
たまらずバランスを崩し足が一瞬浮く足払いだけならこれだけで済む、その一瞬を逃さず俺は刀から右手を離し盾ごと地面へダウンさせる。
つかさず左手で持っていた刀をガラ空きの胴体へ当てる。
「…一本」
「ま、参りました」
パチパチと乾いた音が聞こえてきた、周りを見るといつの間にか兵士が観戦しているそれに気が付かないほど試合に集中していた。
俺は体勢を解きハルタ兵士から離れる、手を差し出すか悩んだが侮辱に値すると思い辞めた日本では美徳とされる事もあるがここでは違うだろう。
「二人とも、良い試合だった」
「はい!ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
ハルタはすぐ様立ち上がり上官の言葉に感謝を示す、俺もそれに続く。
「ハルタは下がってよい、他の者も訓練に励むといい」
「はい!!」
ハルタを含めた兵士数名、敬礼をする
訓練に戻る者、訓練所から出ていく者と散ってゆく。
その様子を見つつ刀を納刀した…チンッと鞘の鉄の鯉口と鍔が当たる音が鳴る、なんだか凄く上機嫌でニコニコした夜天羅が声を掛けてくれる。
「お前様〜お疲れ様なのじゃ」
「ありがとう」
「ヨリツグさん実力は申し分ありません依頼の件、よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
「ありがとうなのじゃ」
「詳しく話は私の執務室でしよう」
ダグラスさんから改めて、依頼を頼まれる。
その後に執務室に移動、詳しい説明を受けてダグラスさんとは別れた。
見送りにファスさんが入口まで一緒に来てくれた
「ファスさん、本当に助かりました」
「いえ!私は提案をしただけなのでそんな…」
「ギルドカードの件はとても助かったのじゃ!」
「あれは私なりの故郷を救ってくれた感謝の印ですよ…それにこの世界を楽しんでほしいですからね」
ファスさんはこの国や世界を愛している、兵士の鏡の様な人だ。
「あれー!?ヨリツグさんにヤテンラさんじゃないですか!」
声を掛けてきた人物それは────
「メルサどの、三日ぶりじゃな」
兵士のメルサだ、彼とはリリーちゃんの件以降会っていなかった。
「あ、分隊長お疲れ様です!」
「あぁおつかれ、今日は非番だったな?」
「はい!…しかしなぜお二人が?」
メルサさんに改めて異邦人である事、依頼件などをかいつまんで説明するとその顔は、驚愕の表情。
「な、なるほど…ん?ルスティア行きの馬車護衛…」
とりあえず情報を飲み込む…すると何かを考えだすメルサさん、次の瞬間あっと声をあげた。
「それ俺が担当の任務じゃないですか!」
なんと馬車に同行、監督する兵士は彼の様で当日、乗合馬車は縦に三列の予定その前後を兵士と傭兵が乗る小型馬車が挟む型になる。
「そうなんですね、当日よろしくお願いします。!」
「よろしくお願いしますじゃ〜」
「はい!任せてください!」
当日世話になるメルサと握手を交わして俺たちは兵舎を後にした。
「…最初はあれだけ不安がっていたのにな、メルサ副隊長」
ファスは少し揶揄う様にメルサに話しかけるしかしそれは彼を気遣う様にも見られた。
「今でも不安ですよ!俺この間副隊長に昇格したばかりですよ!?」
「いい予行練習だ、お前も部下を持つ立場になったんだ」
「不安だなぁー」
そう言い残しメルサは寮の自室に帰っていく入れ替わる形で階段からダグラスが降りてきた。
「…二人は帰られたか?」
「兵長!今さっきお帰りになられました」
「そうか、しかし…彼は強かったな近衛騎士候補だったお前から見てどうだった?」
「もう、やめてくださいよ近衛騎士候補だったのは昔の話ですよ」
「お二人とも異邦人でなければ勧誘してたんですがね…騎士団長」
「フフ、元、騎士団長だ」
ダグラスは笑った、これまで表情を崩すことの無かった彼、会話から見て取れる二人の関係。
この村に来る前から上司と部下で互いをよく知り信頼をしている、縁継と夜天羅、二人の旅立ちの日が決まった…1ヶ月後、この村を去る。




