第六録:日常 四節「対峙」
村の入り口近くにある大きな建物が兵舎、その兵舎の門前で警備をしている兵士に声をかける。
「すみません、ファスさんからの紹介で来ました、縁継と夜天羅です。」
「お話は伺っています、念のため身分証の提示を」
懐から身分証を取り出し兵士へ手渡す短い確認の後に俺たちへ返却される。
「確認しました、どうぞお入りください。」
許可が下りて中へ入る、外観同様に中は広くドア上部の案内札を見ると寮も兼ねている様だ。
見慣れない場所に二人してキョロキョロと辺りを見ていると斜め前の階段からファスさんが降りてきて俺たちの前に来る。
「やぁ!お二人とも」
「ファスさん!、どうもです」
「どうもなのじゃ、これほんの気持ちじゃが…」
夜天羅は道中に購入したお菓子をファスへ手渡す色々とお世話になっているんだこのくらいは当然だろう、それに尋ねるのに手ぶらなわけにはいかない。
「わざわざありがとうございます。我々の様な体力仕事だと甘い物は助かります」
ファスさんは近くにいた兵士にお菓子を預けて二、三言葉を交わしたあとにこちらへ向く。
「では、我々のボス、兵長の元へご案内しますね」
歩き出したファスさんの後をついてゆく階段を登り三階に到着、部屋の札には兵長執務室と記載されていたコンコンとノックを鳴らしたファスさん。
「ファス・トリランテス分隊長、客人をお連れしました、入ります!」
ビシッとした声が響く。こういう光景を見るとファスさんが兵士だと実感する、いままでの印象は物腰柔らかな青年だったが今は規律を守る厳格な軍人だ。
「入れ」
低く厳かな声が扉の奥から帰ってくる、それを聞いたファスさんは扉を開けて俺たちに入る様にジェスチャーをした。
指示に従い部屋に入室、高そうなシックな机で書類を書いていた人物はペンを置きこちらに視線を向ける。
オールバックのイカつい筋骨隆々の中年男性、その机が少し小さく見えてしまう。
男性は立ち上がり俺たちの前まで来た…身長が高い、恐らく2メートルは超えている。
「…私はここ兵長を務める、ダグラス・マルチネリアだ」
「ヨリツグです」
「ヤテンラじゃ」
手を差し出され俺たち握手をした。
「さぁ、ソファへ掛けたまえ」
俺と夜天羅は来客用のソファに座りファスさんは入室し扉前で待機、ダグラスさんもローテーブルを挟んだ俺たちの対面のソファに座る。
「さて…依頼の件だったな」
「ファスから君達の事は聞いている。馬車護衛の依頼を受けるのに一つ条件を課す」
「…条件ですか?」
「私が指定した兵士と模擬戦をして実力を示してくれ」
ダグラスさんから提示された条件は至極当然のものだった、ウルシヴ討伐の事は当然知っているしかしそれは情報として知っているだけで実際の実力はリリーちゃんしか見ていない。
対人戦か…日本にいた頃でも親父としかした事がない。
「わかりました、俺が前衛なので相手をさせてもらいます」
「そうか…早速、場所を移動しようか」
全員で兵士の訓練所へと場所を移した、そこには訓練中の兵士が何人かおりダグラスさんを見てすぐに敬礼、ダグラスさんも短く敬礼をすると兵士も手を下げて訓練へ戻った。
俺たちが気になるが兵長がいる手前、たまにこちらへ視線送るに留めていた。
「では…ハルタ兵士!」
「はい!」
ダグラスさんに呼ばれたのは若い兵士は手に木剣を持ち小走りでこちらへ来る…恐らく年齢は俺より2、3上だろうか。
「ハルタ兵士、お前には今からこちらの方と模擬戦をしてもらう、準備を整えて5分後には試合をしてもらう」
「はい!了解しました」
ビシッと敬礼を決めてから走って訓練所を去っていく。
「ヨリツグさんも準備を頼む、私は場の準備をする」
「わかりました」
そう言ってダグラスさんは訓練所の中心あたりで何やら準備を始め俺は軽く準備運動をして体の調子を確かめる、体調はすこぶる調子がいい絶好調だ。
次に素振りをしようとしたが木剣の場所がわからない。
「ファスさん、木剣てどこにありますか?」
近くにいたファスさんに尋ねる、西洋剣は扱いなれないがさすがに刀を抜くわけにはいかない。
「ヨリツグさん、自前の剣で大丈夫ですよ」
「え?さすがに真剣は…怪我してもいけませんし」
「大丈夫ですよ、今からダグラス兵長が魔法を張るので」
…魔法で怪我を防ぐのか?なんしろ実践に限りなく近い試合になる。
まさかこんな形で刀を抜く事になるなんてな…さすがに緊張してきた早速、人に真剣を向けるなんて経験がない危険な刃物を人に向けるその行為に忌避感を覚える。
俺が考え事をしているとガシャガシャと鉄が擦れる音が聞こえてくる、厳しく訓練されているのか3分ほどでハルタ兵士の準備が整ったようだ。
「ハルタ兵士!ただいま戻りました!」
再びダグラスに短く敬礼をしてからハルタ兵士はそのままこちらを待つ。
「お前様なら大丈夫じゃ!」
「ありがと、行ってくる」
相変わらず、太陽の様な笑顔を向ける夜天羅、最愛の人からの全服の信頼と応援それだけでもう負ける気がしない俺は訓練所の中心へ歩き出す…いつの間にか緊張は解けていた。




