第七録:この世界で─ 二節「二人での実戦」
「!!!ッ…うお!?」
「お前様ッ!!」
間一髪、自分に向かい飛来してきた"ソレ"を下段から一刀両断する。
血を撒きながら左右に転がり落ちる肉の塊森から木を薙ぎ倒し投げられたのは──魔物、ドレッドラッシュだった。
それも事前に聞いていた異常個体の特徴と一致するアイコンタクトを送ると夜天羅は意図を汲んでコイスケを近くの茂みに退避させる。
それを見届け眼前を警戒しつつ、遺体を確認する…ドレッドラッシュの顔付近は引き裂かれ潰されて噛み跡がついている、これが意味するのは投擲された時点でドレッドラッシュはすでに死んでいた。
一番の問題はこの奥に潜む魔物。
敵の気配に敏感な夜天羅が気が付かない魔物…よほど身を隠すのが上手いらしい。
「お前様!前から来よるぞ!」
ドタドタと騒がしい足尾とと獣の荒い息遣いが徐々に大きなってくる。
ガァアアァアァ!!!
獣の咆哮と共に飛び出してきたのは三メートルはある二足歩行の巨体、飛ぶことに特化した足に鋭い尻尾、それに加えて艶やかで美しい赤い体毛…こいつだ。
「…まさかこんなに早く本命に会えるなんてな」
そう…俺たちの本命はこいつ。魔物"クリムゾン・ヴォーパル"
等級は驚愕の一等級。
こいつは一等級依頼のため今の俺たちでは依頼を請ける事はできないだからコイツの縄張りに近い今の依頼を請けて依頼外で討伐する予定だった。
なぜ危険を犯してまでクリムゾン・ヴォーパルを狙うのか?それは毛皮だ、コイツの素材で1番価値が高いだからこそいい土産になる。
眼前の魔物は明らかに興奮している。
なのになぜか襲ってこない…いやに冷静だ、後ろの夜天羅に合図を送り俺はヴォーパルに接近、刀の間合いに持ち込む。しかしヴォーパルは自慢の脚力で真上に飛び上がりその鋭い尻尾が襲いかかる。
だが鋭い尾が俺に当たる事はない──ガンッ、尻尾に衝突したのは矢だ、夜天羅が放った弓矢は狂いなく尾に命中した。
!!!
魔物は驚きを隠せないが、強者であるクリムゾンヴォーパルは次の攻撃に移ろうとする。
その刹那、俺は尻尾を掴み渾身の力で地面に叩き落とす。
ガッヒゥッ!?
つかさず、そのまま尾を切り落とし攻撃手段の一つを奪う。
ガァァアァア!!!
「!!ッぶねぇ!」
尾を切り落とした瞬間、その脚力を生かした蹴りの反撃を仕掛けてきた俺は左に身を躱して距離を空ける
、ヴォーパルは眼前の俺と距離を空けた後方の夜天羅に挟まれる形になった。
状況は俺たちが優勢…魔物の出方を見る、このまま逃走しようとするのか俺に攻撃を仕掛けてくるか…
しかし、クリムゾンヴォーパルは眼前の俺ではなく身を翻して夜天羅へと標的を定めた。
あー…そっちにいったか、それは悪手だぞ。
夜天羅へ距離を詰めたヴォーパルはその腕を振り上げ勝ち誇った顔をしている、凶爪は夜天羅へ振り下ろされる─はずだった──ゴキッ、骨を砕く鈍い音が聞こえる。
──砕かれたのはクリムゾンヴォーパルの腕。
それもそうだ、夜天羅は諸事情で弓を使い後衛に回っているだけで彼女は鬼だ。
近接が弱いわけがない、むしろ得意分野だ。
魔物は唖然として何が起こったか理解ができずにいる。
「すまんのう…終わりじゃ」
夜天羅は後方に飛び退いた、その瞬間に俺は足に力を込めて脱兎の如く近づき夜天羅とヴォーパルの間に入りウルシヴと同じく全身全霊の拳を叩き込み心臓を潰す、ウルシヴとは違い防御力は低くくより深く拳がめり込む。
カヒュッ…
ヴォーパルは短い喘鳴を吐き地に伏して絶命した。
「夜天羅、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ、無傷じゃよ」
うなんにゃんな
茂みから姿を現したコイスケは伸びをしてから乱れた毛を整える。
「しかし…一等級の割には拍子抜けというか」
正直な話、もっと手こずると思っていた…決して侮ってたわけでは無かったしヴォーパルがミスを犯していた事は分かっている。
「お前様は実践経験がなかったからのう実力ならお前様は十二分じゃ、この世界の魔物の評価がお前様の中で高いんじゃないかの?」
「かもなぁ」
夜天羅の言う事は一理ある、未知の世界の生物に警戒しすぎて全力で戦っていた。
だが今回は余裕があった、夜天羅のフォローが精神的な余裕を生んだ、そのおかげでヴォーパルの素材を考えて傷つけないよう倒す事ができた。
「しっかし…一石二鳥とはこの事だな」
「じゃな、まさかすでに依頼の魔物が倒されているなんて…なんでなんじゃろな?」
首を傾げる夜天羅、もっともな疑問だがこれは大体の推測ができる。
「多分…こいつ、ドレッドラッシュがヴォーパルの縄張りに侵入、キレたヴォーパルが…て感じだろうな」
「あーなるほどのう、そこに追加でわしらか」
「だと思う」
タイミングがよかったのか悪かったのか…結果的に言えば良いんだけどな…戦闘が一回減ったし。
「さてと、ギルドに回収を頼むか…」
「わしは荷物をまとめてくるのじゃ」
にゃう!
そう言って夜天羅とコイスケは荷物を取りいくその間に俺はウエストポーチから巻物を取り出す、これはギルドから支給される帰還魔法。
四等級から無償で支給それ以下の等級は報酬額から天引き、重量制限と言うより一定の規模を超えると事前連絡が必要だが今回はその規模を超えていない。
巻物に魔力を籠めると俺を中心に魔法陣が広がる、後は指定の文言を唱えると魔法が発動してギルドに帰還できる。
「お前様、お待たせなんじゃ」
にゃうにゃにゃ
荷物を持った夜天羅とコイスケが戻ってきて全員が魔法陣に入り準備が整った。
「じゃあ、いくぞ」
「いつでも大丈夫じゃ」
にゃ!
「よし…指定座標ヒューサス・エルサル、接続魔法陣、第二ギルド!」
その瞬間、魔法陣が光を放ち、俺たちを包み込む。




