第五十九録:行く宛 一節「奇跡は受け継がれる。」
「カトレアですか?」
「………」
……どこかで聞いた様な?だが思い出せない、その名をどこかで…。
「君たち二人はこの名の人物を知っている、なにせカトレアが起こした事件の後始末をしたじゃないか」
「事件───!?」
「気がついた様だね、ディープホワイト陥落の原因…そのカトレアが今は降魔礼賛の首魁。」
そういうことか!わざわざ俺たちに伝えるわけだ!そうなると別の問題が浮上する。
「ほぼ確実に狙われているかもしれんのう…」
「ドロシーをだな…」
今のカトレアがどういう理念や心情で動いているかはわからない、ドロシーに興味はないかもしれないが静かに理性的に情念を晴らす機会を伺っているかもしれない。
「伝える伝えないは任せる、あの子の事は君たちが一番よく知っているだろう。」
「はい…」
「うむ…」
ドロシーにとっては両親の仇、いや…ドロシー自身も一度殺されかけている。
だが…一番気がかりなのはドロシーはまだ精神、この場合は魂か?が幼い、まだ死という概念すら理解できていないかもしれない。
そんな中伝えることなんて…
隣いる夜天羅の顔を見る、複雑な顔をしていた…きっと俺も同じ顔をしているだろうな。
「あぁ…もし協力者にこの事を伝える時は筆談を推薦する、首魁はわかったがどれほどの規模や技術を持っているか未知数だらな」
「わかりました」
「心得たのじゃ」
「我が伝えたい事はひとまず伝えた、また何かあれば我からコンタクトを取ろう…ではな。」
アモンさんがそう言い終えた瞬間に意識が戻る、まるで夢から覚めた様な感覚だ。
座って時間を確かめる、ちょうど日付を跨いだぐらい…夜天羅とベッドに寝転がってから2時間が経っていた。
コイスケとドロシーがくっついて静かな吐息を立てているのが目に入る。
俺と夜天羅は目を合わせ言葉は交わさずとも互いの行動を読んで動く。
二人してルーディル家の中庭まで来た、月が輝く深夜の雪景色を見つめる…白い息を吐きながら空を見上げる。
「わしは…"まだ"伝えたくない、今のあの子にこんな酷な事は言いたくないのじゃ。」
「…………そっか」
夜天羅から短くそう告げられた、俺は黙ってその言葉を受け止める。
"まだ"伝えたくない、ドロシーの今の精神的にこの情報を与えるのは毒だろう。
……夜天羅自身も辛い境遇を生きてきた、だからこそより深くドロシーの境遇に感情が共鳴してしまう、ただ夜天羅の根底にあるのはドロシーが幸せに生きてほしいという想い。それを思えば思うほど辛いだろう…ドロシーには辛い過去とむき合わせる事になる、この情報さえ知らなければドロシーが傷つくことも復讐者になることもない。
そう…思わずにはいられない。
「俺も同じだ…まだダメだと思う。」
夜天羅と意見は同じだ、今のドロシーはまだダメだ。ドロシーの幸せを考えるなら短絡的な選択はできない、ただ…カトレアがいつ襲ってくるかわからない。
奴にとってはドロシーの事などお構いなしだ。
「お前様、わしはドロシーにとっての"最後の手"に…かつてワシが受け取ったように。」
自身が受けた奇跡…俺のご先祖であった来空と言う手を取った夜天羅。
「そうだな…いいじゃないか。俺にも手伝わせてくれ。」
「もちろんじゃ!頼りにしておるのじゃ!」
中庭で寄り添い手を繋ぐ、この先の旅も四苦八苦するだろう…だがそれだけじゃない。
俺たちは幸せだ、こんな問題を抱えていてもそれは変わらない。
…ドロシーも同じ気持ちだと思いたい。




