第五十七録:身の程を知れ 四節「悪魔が懺悔など」
「ハァッ…ハァッ…!!」
(氷が傷を覆うッ!再生ができない!いや拮抗させられている!この傷を覆う氷の魔法は本来なら傷ができた時点で終わりなんだろう、傷から侵食していく氷!それが私の再生と釣り合ってしまっている!)
サタナエルは背中の翼を触って確認する、本来なら立派な両翼がある場所…しかし今はどこにもなく根元は氷で覆われていた。
「〜ッ!!」
氷が覆われた場所は凍傷となり痛みが走る、
再生、回復能力があるが故に慢性的な痛みが精神に障り苛立ちをより一層強めさせる。
(なぜだ!なぜ!こうなった!?)
疑問は尽きない、サタナエルはこの状況に至った原因…突如として現れた人間。
(そもそも!あの人間がおかしいッ!!人の身で持ち合わせていい力の限度を超えている!)
自身と渡り合う力を持つ人間。サタナエルはそれが原因だと、そう…断定していた。
……だが、それは原因の本質ではない。
「!!」
サタナエルは辺りを見渡してあることに気がつく、自分が堕ちた場所。
全力で戦闘をしていた場所から少し離れたこの場所は───
「ッ…神如きがッ!!」
教会だった…自身が最も恨み、殺してやりたいと思う相手を祀る場所。
少なからず戦闘の影響で半壊していた…崩壊した屋根からは陽がさし女神像を照らす。
例え神が代替わりして自分が知らぬ女神だとしても思いは変わらない。
不愉快極まりない状況にサタナエルは不快感を覚える。
(いや、今は思いに耽っている場合ではない!逃げ───)
「……懺悔は済んだか?」
「誰に物を言っているッ!!」
退路になるはずだった教会の入り口…そこに静かに立っている人間。
今すぐにでも殺してやりたい、自分をこんな風にしたヤツが心底憎い。
だが…迂闊に飛び掛かる事ができない。
(ヤツにはもうドロール・プロディティオが効かないッ!それどころか無効化さえしてくる!あの左手に持つ神刀のせいでだ!!)
サタナエルの視線は左手に持つ紫色に輝く刃へ注がれていた。
────警戒しているな。
距離を空けて俺とサタナエルは対峙する。
これが最後の対峙、最後の攻防…皮肉な事だ、悪魔との戦いの決着の場所が教会になるなんてな。
司祭の様な佇まいのサタナエル…その実は教会が最も忌むべき存在、何千人をも犠牲にして来た外道。
悪魔だからなどではない、悪魔が人を喰わずとも生きていける事は知っている。
ネローズがいい例だろう。
サタナエル個人が邪悪で自分勝手にそうして来たに過ぎない。
だから…人の手によって裁く、判決などもうとっくの昔に下されていた。
あとはそれを実行するだけの事…サタナエルの永きに渡る命を終わらせる。
俺は静かに刀と壊縁を構えた、サタナエルも同じくハルバートを構えた。
動かない、互いに相手の動きを慎重に観察して機を見定める。
長い時間が流れたかの様な錯覚に襲われる、張り詰めた緊張感が漂う中…白い、綿毛の様な小さな粒がゆらゆらと地面に落ちてゆく。
雪が降り始めた、その時────同時に動いた。




