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異世界帰還録  作者: 夜縹 空継
第一章:旅立ち
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第五録:段取り  四節「無銘の流れ星」

「…俺はここの代表、バルサーヤ・ランダナ」

「縁継です」

「夜天羅じゃ」

刀を左手で持ち店主、バルサーヤさんと握手を交わして

続いて夜天羅も握手を交わした。

バルサーヤさんは俺の剣の腕を認めてくれた。

純粋に嬉しいが気になるのは─

「のう、バルサーヤどのこの業物をどうやって入手したんじゃ?」

夜天羅が質問をした、そうなぜ刀があるのか?

考えられるのは技術移転だ俺たちの様に

異世界へ飛ばされた人が技術を伝える、可能性としては十分だ。

「…この剣は八重剣(やえつるぎ)と呼ばれているごく稀にしか入手ができない貴重な物だ」


考えが当たっていた同時にリグレさんも

分らないと言っていた八重ノ島(やえのしま)の情報。

一つ確かなのは八重ノ島には日本人がいると言う事だ

その人物が刀匠かはわからない。

「…ただこれは違う漂着物だ、稀に他の世界から物質が流れ着く事がある…」

驚いた…ならこの刀はこの世界で作られたのではなく

日本から次元を超えて渡ってきたのか。


「…偶然森で発見したのを回収した、それが入手経緯だ。」

「そうなんですね…」

「怖いのは値段じゃのう」

夜天羅の言う通り、値段が恐ろしい。

そもそもが希少品だそれが他世界の品となれば価値は増す

下手をすると今ある資金じゃ買えないかもしれない。

「…お代は…いい、元が拾い物だ」

なんとも気前のいい事言うバルサーヤさんこんな業物を無償で譲るなんて。


「そんな…申し訳ないですよ!」

「…いいんだ、俺はな正しい持ち主に

 武器を送ってやりたいんだ…そいつは君と出会う為にここにあった」

俺は握った刀を見た、そう言われるのも納得してしまう。

先ほどの試し切りをした感想は異様に手に馴染む、だ。

元いた世界でも真剣を握る機会は何度もあった

ただ…この先この刀より馴染む物はない、断言できる。


「その弓も同じだ…そっちはきちんとお代はもらうがね」

そう言うバルサーヤさんの表情は心なしか

柔らかなものだった全員で試し部屋から出て店内に戻る。

「…少し待っててくれ」

そう言いバルサーヤさんはカウンターに戻っていく

ゴソゴソと何かを探している音が微かに聞こえた。

1〜2分ですぐに戻ってきた彼はカウンターの上に細長い木箱を置いた。


「これは?」

俺と夜天羅の視線は木箱へ移る。

今にも朽ち果てそうなボロボロの古い木箱

辛うじて文字を発見、日本語の様だがあまりに達筆な文字は俺には読め…る?!

どうなってる…こんな文字を読めるほど俺は古典が得意じゃない。

これもこの世界の文字を書けたり読めたりの謎に繋がるのか?

「…私の最期の傑作を…か」

読める文字を口に出した

最期…か、この刀匠の遺作になるのか…

帯刀した刀の重みが増した気がした。


「お前様、昔の文字が読めるかの?」

「なんで読めるかは分らないけどな」

「バルサーヤさん、これって」

「あぁ、その刀が入っていた木箱だ」.

そう言うと箱の蓋を開ける。


中には手紙が一通と刀に必要な手入れ道具が一式詰められていた。

普通の手入れ道具だけなら別になんてことはない。

しかし()()()()()()()()()()(つち)()(たがね)()()()()()()それに…

古い道具ではあるがそこまで年数が経っている感じがしない。

箱だけが相応に朽ちていた。

疑問を解消する手掛かりであろう手紙に手を伸ばし広げた

夜天羅も隣から覗く、そこには短い文章が綴られていた。


私は病に伏し、もはや刀を打つことすら至難、それでも私は刀を打つ。

死が鼻先まで迫る中想うのは今なら我が人生、至極の傑作が打てる。

生き死にの(きわ)で掴んだ天啓を鉄に込める。

寝ても覚めても鉄を打つそれが我が生涯の意味

私のことは覚えてなくていい、誰でもいい

この傑作を思うままに振るってくれ。

星牟礼(ほしむれ) 流宗(りゅうそう)


…そう綴られていた。

手紙の最後の方の文字は弱々しく乾いた血の様なものも付着していた。

俺は心に熱いものを覚える。

この刀匠は切な願いを込め力を振り絞り刀をどこかへ送り出した…

そして行き着いた先がここ()


刀に、鉄に、全てを捧げた人の遺作。

そんな人生の結晶が手元にある、俺はこの刀を扱う責任と覚悟が問われる。

「まさに生き様じゃな」

「そうだな…バルサーヤさんちょっと刀をだしますね」

「?あぁ…」

手紙を置き許可を得て俺は帯刀している刀を

カウンターへ、そして鞘から刀を引き抜いた。

手入れ道具から目釘抜き(めくぎぬき)を取り出し柄の目釘を

取り正しい手順で刀身を取り出した。

「ほう…そこまで分解できるのか」

武器屋を営んでいるバルサーヤさんは興味津々で眺めている

刀を分解したのは銘が知りたかったからだ


しかし─

「銘が…ない?」

まさかの名無しだった

刀に全てを捧げた人が銘を打つことをしなかった…なぜなのか?

病のせいで銘を打てなかった?…いや考えにくい。

全てを木箱に詰める元気はあった、それなら銘を打つくらい可能なはずだ。

ハッとして木箱に入っていた道具を見る

…待てよ、もしかして─


「んー?お前様、裏にも何かおるぞ?」

隣で手紙を手に取っていた夜天羅が裏面を読み上げる。

「えーと、"全てを委ねる"だと?」

だから(つち)(たがね)が入っていたのか!

あらゆる可能性を刀を持った者にへ託す。

恐らく…この刀匠、星牟礼(ほしむれ) 流宗(りゅうそう)は刀が能動的に世を渡ればいいと考えている。

…この人にとって刀が生きるとはそういうことなんだろう。

なら…銘を打ちこの刀の生を始める…

この考えと同時に傷つける事への忌避感がある。


「…話半分で聞きな、俺はこの手の職人はよく知っている。」

「その手紙に書いてある事は全てが本心、この手の職人は

 地位も名誉も富もいらない求めているのは自身の手で

 作り出す至極の剣だからその後のことは気にしやしないさ」


悩んでいる俺を見かけて声を掛けてくれる

至極の剣…か、俺の手にそれがある幸運だ。

あまりに恵まれている。

「それに…俺なら君みたいな男に

 名付けて貰えるなら嬉しいがな、だから…名を与えてやりな」

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