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まるっきり冗談に聞こえるぜ

 元気いっぱい。おれの魔力はフルチャージ完了だった。来るべき戦いへの準備は万端だ。念のため使い魔を斥候に出し報告を待つ間、真メガテンVVで遊ぶのだった。

 品川区の空は禍々しい赤で、オオカミ男に完膚なきまでにぶっ飛ばされた。配下の仲魔、全員に参戦してもらったのだが、出る仲魔出る仲魔ことごとく沈んでゆく。野球には、変わった野手のところに打球が飛ぶ、というオカルトめいた格言がある。メガテンでは変わった仲魔のところに攻撃が飛ぶ。こいつはオカルトではない。絶対にわざとだ。

 おれの悪魔軍団は控えの連中の方が強いのだった。スタメンは育成中の仲魔ゆえにどうしても格が低い。そいつを倒したくらいでいい気になるなよ、そいつは我が軍団の中では最弱だ。そういう気分で余裕こいていた。ところがだ。

 プリンシパリティ先生、前線の立て直しをお願いします。アナーヒター姐さん、やつに氷をぶち込んでしまいましょう。カイチ先輩、あんちきしょうの鼻っ面にチョーパンかましてやってください。

 用心棒的に控えていた面々をここぞと戦線に召喚してやっても、やつの爪でひと撫でされただけで、ウワァーとかキャアーとか言って、赤く光りながら消えてゆく。おれの目の前でだ。なんだこりゃ。何が起こっているんだ。マガツヒスキル・会心を使う暇と余裕がない。我が軍団がいいように蹂躙されている。おれのせいだ。おれの用兵がまずかったせいだ。

 戦闘初期からずっと粘っていたマタドールが遂に陥落した。もう勝ち目などはとっくにない。最初からなかったのだ。それでもおれはリセットはしなかった。最後の最後まで最善は尽くす。敗北をこの目に刻みつける。せめて一発、ブフーラを喰らわせてやってくれ、そんな願いで投入されたコロポックルもワンパンで沈んでいった。万事休す。だから最初っから休していたんだって。

 覚えていろよ、犬ッコロ。今のうちに勝利に酔っておけ。次に遭うときがお前の最期だ。これは負け惜しみではない。実際にそうなるのだ。やつのストロングポイント、ウィークポイントはすべて手の内に入った。そしておれたちは何度でも蘇る。厳密に言うと、時間を巻き戻すことができる。この負けはなかったことになる。ズルいとか言いっこなしだぜ。魔界じゃそんな言葉を吐くやつから消えてゆくんだ。ただ、おまえの強さは本物だ。それは誇っていい。でも相手が悪かったな。おまえはすでに死んでいる。まだその時は来ていないってだけのことだ。


 使い魔が帰還した。早速、報告を聞いたがどうも要領を得ない。こいつ、使い魔のくせに使えない。そのくせ物欲しそうな目で見てくるものだから、ついご褒美を上げてしまった。これでおれの寿命がまた少し縮んだってことだ。こういうところがおれは甘いんだ。部下の適当な仕事を注意することができない。だっておれ自体が適当だからな。適当でいいよって、つい言っちまうからな。テキトー人生。ええいままよ、で突っ込んで何度ボコされてきたか。性分だよ、しょうがない。

 使い魔のやつ、手を叩いて喜んでいやがる。その姿を見ると、まあいいかって気分になる。どうでもいいやって気になるし、どうにでもなれって感じになる。別に荒れてるわけじゃない。明け方の湖面のように、おれの心は澄み切って落ち着いている。静かな破れかぶれだ。なんだっていいんだ、最初からどうせ。

 実際問題、なにもかも大したことじゃない。苦しいことも楽しいことも、俯瞰で見れば大差ない。水面に小石を投げ込んで広がる波紋のようなものだ。当事者性。主観。自己意識。こいつらがとにかく厄介なんだ。なんでもないことが増幅され、ただの波紋が大津波のように、まるで人生の一大事であるかのように思い込まされてしまう。決してそんなことはないんだ。すべてをシカトして中央線の下りに乗り込んで高尾まで行ってそのまま高尾山の頂上まで行っちまったって別にいいんだ本当は。途中でうるさい携帯電話を屑籠に放り込んでしまえばいいんだ。そうすりゃ、ほら、なにもない。

 なにもかもが許されているが、なにもかもが許されてはいない。この世は強烈な思い込みによってのみ成り立っている。それはまるで魔法だよ。個人の魔力なんざ歯も立ちやしない。来るべき戦い? んなもんどうでもよかちんちん。

 まるっきり馬鹿らしくなった。無駄に気合いを入れようとしている自分自身にも、ただ生きるのに気合いを要求してくるこの世の成り立ちにも。

 おい、使い魔。少し強めの声色で使い魔を呼びつけた。なにごと? 少し不安そうな顔をして使い魔がのこのこやってくる。しばしの沈黙。使い魔がもじもじし始めたところを見計らって、にかっと笑顔で、飲み行くべー。

 使い魔、飛び跳ねてはしゃいでいる。かわいいやつ。


 高尾山の頂上にはビアガーデンがあると言うが、もちろんおれたちはわざわざそんなところまで出掛けて行ったりはしなかった。行くのは構わない。だが帰るのが面倒くさい。酒などそこら中で飲める。そう言う意味では、まあいい時代だ。

 おれたちは見事に酔っぱらった。使い魔なんて顔を真っ赤にして、プヒィー、なんて言ってる。おれだって負けず劣らず良い気分だ。このままいくらでも飲めそうだ。そんな夜がある。アルコールが身体に馴染むんだ。すっと入ってきて、しっくりくるんだ。不快な部分一切なし、夜のすべてが浮かれてやがるんだ。

 誰とだって仲良くなれそうだし、実際誰に話し掛けたっていいのだが、まあ、そんなことはしないよ、実際には。特別仲良くしたいやつもいないしな、なあ使い魔? おい、使い魔?

 魔力が切れちまったんだ。使い魔のやつ、消えていた。触媒である針金人形がテーブルの上に転がっていた。おれの手作りだ。簡単に出来ると思っていたが、結構時間が掛かった。立体物を作るのがおれは苦手なんだ。レゴブロック、ダイヤブロック、マインクラフト、全部苦手だ。マインクラフトで掘りまくるのは楽しいが。マイン部分だな。クラフト部分はさっぱりだ。豆腐しかできん。でもああいうので思うままに作れたら楽しいだろうな、そう思うことはある。

 急に寂しくなっちまった。ひとりで飲むのは好きじゃない。人恋しくなるから。変な時間に友だちに電話を掛けたり、金もないのにガールズバーに入ったり。ろくなもんじゃない。

 シャルシュルシュルルルルームって音を立てて萎びていった。おれの中の何かがだ。

 熱っぽく潤んだ夜がたちまち湿っぽい熱帯夜だ。熱を持てあました寝苦しさに寝返りも打てずにうなされている街がグオングオン言っている。暑い。まったく暑すぎるし、すっぱい汗の臭いがする。これじゃダメだ。いますぐにシャワーを浴びなければいけない。


 二度目の挑戦で狼男をあっさり撃破した。それぞれがそれぞれの役目を全うした結果だ。ようやく道は開けて、また先へと進めるようになった。

 そして一気に世代交代の波がきて、合体を繰り返した結果、ラインナップの顔ぶれが大幅に様変わりすることとなった。とはいえ、戦いの系譜はしっかりと引き継がれている。無駄飯喰らいのへなちょこな仲魔など誰ひとりいなかった。たとえ戦場での活躍が短かったやつだって、我が悪魔軍団の血となり肉となり、礎として記憶として残り続けるのだ。

 はっきり言っておれには創世なんて興味ない。ただプリンシパリティとリリムだったら、そりゃ迷いなくリリムを選ぶでしょうってくらいにはカオス寄りとだけ言っておこう。

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