表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/47

取り戻すために 4



酷く、懐かしい。


あ、あのバルコニー、直したのね。





——あれから10日。

私は、帝国の皇太子宮の入り口に立っていた。

とんぼ帰りしたアルバート様が、私を皇太子宮に送り届けるよう、護衛と馬車を手配してくれていた。

絶対に逃げられないようにされたとも言う。逃げないけどね。


どうしても学校に行かないといけない日があったので、出発はアルバート様より3日ほど遅れたが、到着は予定通り。


でも、事情を知らないだろう顔見知りの衛兵が、驚いた表情でこちらを見ている。

そりゃ、そうだ。

もう、皇太子の婚約者ではないのだから。


入って良いのか躊躇っていると、アルバート様が迎えに来てくれた。


「マーガレット嬢、中へどうぞ。


——エドウィン様は、執務室においでです」


案内に着いて行くと、かつて見慣れていた、重厚な両開きの扉。

アルバート様が、ノックの後、恭しく告げる。


「エドウィン様、失礼致します」


「アルバートか、入れ」


——懐かしい、声。

少し、力無く聞こえるのは、どうしてだろう。


ミクの行方不明に、心を痛めているのかな。


ちくちく痛む胸を持て余していたが、執務机に着いてこちらも見ずにペンを走らす姿を見て、息を呑んだ。


———これは、誰?

アルバート様以上に痩せて、顔色悪く、もういつ倒れてもおかしくない様子だ。


「エドウィン様は、毎日食事は1、2回。

それも、ほんの少ししか取られません。


まとまった睡眠時間も、毎日2時間程。


——私が『死んでしまう』と言ったことは、誇張ではないと分かっていただけたろうか」


アルバート様が囁く。


私は、駆け出した。


そして、執務机を力一杯叩いた。


「エドウィン様!」


叫ぶ。怒りが渦巻く。

何やってんのこの人‼︎


驚いて顔を上げたエドウィン様は、私を見てさらに目を見開いた。


——酷い顔。

イケメンが一欠片も、残ってないよ。


「こっちに来て‼︎」


私が腕を引っ張って立ち上がらせると、彼はすんなり付いてきた。

なんて非力!

私の力で動かせるなんて‼︎


私は無理矢理ソファにエドウィン様を座らせ、更に隣に座った私の膝に、エドウィン様の頭を乗せるよう引っ張った。


驚いたまま、私の膝枕で横になっているエドウィン様を尻目に、私はアルバート様に言った。


「今から私が良いというまで、この部屋に誰も入れないで‼︎」


私の剣幕に驚いている文官の皆様を促し、「よろしくお願いします」と言って、アルバート様は部屋を出て行った。


私は、エドウィン様の目の上に、優しく右手を置いた。


「エドウィン様、お久しぶりですわ」


努めて平静を装って、声をかける。

エドウィン様は、驚き過ぎたのか、何も言えずにいる。


「目を瞑って、お休みください。

そんな状態で執務されても、良いことはありませんわ」


左手で、ゆっくりエドウィン様の頭を撫でる。


美しいプラチナブロンドだったのに、今はくすんでいる。

健康状態が良くないことの現れだ。


撫でながら、昔よく一緒に歌った童歌を、鼻歌で歌う。

子守唄代わりになれば良い。


「マーガレット…?」


「はい、ウィン様。

レティとは呼んでくださいませんの?」


悪戯っぽく、私は言う。

この人はダメだ。これ以上は。

私の想いなど、今は要らない。

全力で、フォローする。


「……レティ」

「はい。ここにおります」


蚊の鳴くような声で告げられた愛称。

全力で縋ってくるエドウィン様を、受け止める。

受け止めきってやる。



「———ごめん、レティ。

本当にごめん。


あ…謝りたくて……ずっと……」


右手が濡れる。

ぽろぽろと、雫が落ちる。


完璧天才皇太子が、剥がれ落ちて。

出逢ったばかりの、一緒に笑い合った少年が顔を出す。


「いいのですよ。もういいのです。

私は、貴方を嫌っていませんよ。

分かってるでしょう?ウィン」


私は、笑いを含んだ声で言う。

本当に、何でもないのだと。


「お側にいますから、少し眠ってくださいませ。


そんな顔色だと、心配しちゃいますわ。

後でゆっくりお話ししましょうね」


「……本当に?どこにも行かない?」


幼い子のような問いかけに、優しく答える。


「ええ、約束します。

私が約束を必ず守るの、知っているでしょう?」


「そう、だね。

レティ、は、やくそく、まもる……」



寝息が聞こえた。

規則的なそれと、少し重くなった膝。


——もう大丈夫かな。


私は、そっと右手を外した。

彼の、涙でぐちゃぐちゃになった目元を、ハンカチで優しく拭う。



そして、私の目元も。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ