11 魔
「あなたは誰……」
「好きな名前で呼べばいいわ」
「この国の人なの」
「そう思いたければ、思えばいいでしょ」
「では違うの」
「わたしはわたしよ。それ以外ではないわ」
「きっと悪魔なのね」
「その呼び名でも良いけど、でも失敬よ。魔はいいけど、それに悪を付けるなんて……」
「もしかして、その概念を持つのが人間だけだから」
「おやおや、難しいことを言うのね」
「ならば、魔、にするわ。いいわね」
「どうぞ、お好きに……」
「何故、わたしの夢に……」
「あなたが呼んだからよ」
「そうなんだ」
「もしかして気づいてないとか」
「ええ、気づいていないわ」
「さらにもしかして来て欲しくなかったとか」
「そんなこと、わからない」
「もうずいぶん前から、あなたは自分で考えることを止めているわね」
「そうなんだ」
「あら、そこはその答じゃないでしょ。あなた自身、気づいているのだから……」
「だって母が……」
「あなたはお母さんも殺したい」
「そんなことできっこないわ」
「わたしが助けてあげても……」
「あなたに何ができるのよ」
「何でもできるわ。そして何もできない」
「言っていることがわからないわ」
「わたしはただのきっかけよ。でも、それが大きいの」
「やっぱり何だかわからないわ」
「じゃあ、別の話をしましょうか」
「いいわよ」
「あなたはナルセが好き」
「さあ」
「ナルセはあなたを好きになりかけているわ」
「ああ、そう」
「それでね、彼は自分では気づいていないけど、死の商人に利用されているの」
「そうなんだ」
「あら、あなたのご主人だって……」
「主人の話は聞きたくないわ」
「知ってしまうのが怖いのね」
「そんなことないけど」
「だったらいいことを教えてあげましょうか」
「えっ、どんなこと……」
「今はまだ準備段階だけど、この国は将来核兵器さえ隠し持つようになるわ」
「そうなの」
「ええ。でもまだ単純な生化学兵器しか持っていない」
「興味がないわ」
「それを使えば、あなたにご主人が殺せるとしても……」
「そんなの、手に入らないわよ」
「そこはわたしが何とかするわ」
「何とかできるわけ」
「何人かの心の中を渡り歩いて、その都度、二言三言いえば簡単よ」
「ああ、そんなことができるんだ。いいわね」
「いいかどうかはわたしにもわからないけど、でもできるわ」
「ふうん。そんなことしてみたいな、わたしも……」
「じゃあ、わたしの代わりになる」
「そんなの母が許さないわ」
「でもこのままだったら、あなたはもうすぐ、あなたのお母さんと同じになる。そしてあなたの子供はあなたになる」
「いやよ」
「ならば殺せばいい。それが一番簡単な方法」
「物騒なのね」
「簡単なことよ。あなたは単に命じて見ていればいい。それだけのこと」
「いやよ」
「なら止める。チャンスは一回切り。明日の晩しかないけど」
「うーん」
「そして猶予もない。あなたはもうじきこの夢から目覚めてしまう」
「本当に……。これは夢なの」
「どう思ってもいいわ。どうせ、あと二、三十年もすれば別の名前で呼ばれることになるのだし……」
「別の名前って」
「別の名前は別の名前よ」
「わたしが知らない」
「でも、あなたは知ることになる」
「そうなんだ」
「で、どうする。殺るの、殺らないの……」
「実はわたしに選択肢なんかないんでしょう」
「そう思いたいなら思えばいいわ。でも、それが答ね」
「うん、わたしはあなたになる。だけど、そうするとあなたは……」
「心配しなくていいわよ。あなたは自分の心配だけをすればいい」
そして闇の中から目覚めたわたしは初めて自ら望んで鏡の前に座り、自らの顔をじっと顔を見る。




