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40 お嬢様、思いつきだった

 

「わぁあー! ゆき、さらさら!」


  庭で遊ぶわたしは、コートに手袋に帽子の完全防備である。本当は、手袋は外して直接触りたいけれど……ニーナが傍らで見張っているからできない。わたしはこんな寒さで風邪なんか引かないのに。


  掴んだ雪を空に向かって投げたり、降ってくる雪を口に入れる遊びを終えて、近くの木を見上げる。


「うん、いいこと思いついた! ……ニーナ!」

「はい、リディアお嬢様。どうしましたか?」

「わたし、とってもすてきなことを考えたわ! 木に、かざりをつけるのよ。冬はお花が少ないし、雪でまっしろだから、目立ってきれいでしょ?」

「まあ、素敵ですね! どんな飾りがよろしいですか?」


  どんな飾り……うーん。


「キラキラしたやつ……?」

「でしたら、クリスタルやガラスでしょうか。雪の中で光る木々……幻想的ですわ」

「クリスタルやガラス……」


  それ、高そう。ついでに言うと、子どもの手には重そう。もっと気軽な感じで飾り付けをして、子どものお祭りがしたいのだ。


「キラキラしたやつ、やめた!」

「ええ!? 楽しみでしたのに……では、何を飾るのですか?」

「うーん……ふわふわしたやつ……?」

「綿でしょうか? でも、風で飛ばされそうですわね」


  いや、そのままじゃなくて……玉みたいな形にして。あ、リボンとか結んでも良いかも。キラキラのリボン、きっと可愛いわ。


「部屋にもどりましょう、ニーナ。作戦をねらなくちゃ! あと、マヌエラをよんで」




  ソファに座りながら、わたしの目指すところを考える。

  思いついたのは子どものためのお祭りだ。なるべく難しい事はなしで、子どもたちが自分で準備できる、手軽なお祭り。

  わくわくしながらその日を待って、寒い冬も楽しくなるような。

  おやつを作るのを手伝って、飾り付けをして、おもちゃを貰って……そんなお祭り。


「リディア様、お待たせしました。ニーナからお呼びと伺いましたが」

「マヌエラ! 急にごめんなさい。ええと……お祭りがしたくて」

「お祭り? 何がしたいのですか?」

「あの、おやつを食べて、木に飾り付けをして、おもちゃをもらうの」

「かしこまりました。どのようなものが宜しいでしょう? 全て最高のものをご用意致しますわ」


  プラトナム家使用人の底力をお見せ致しましょう! と息巻いているマヌエラには悪いけれど、わたしは素朴な子どものお祭りがしたいのだ。


「うーん……そういうのじゃなくて。もっと普通の……そぼくな」


  なんて伝えれば良いのか困ってしまったわたしの前で、マヌエラがきょとんとした。


「はぁ。しかし、リディア様のお望みを最高の形で叶えるのが、私どもの普通ですが」

「そっかぁ」


  話が噛み合わないと思った。マヌエラはわたしをイメージしていて、わたしは普通の子どもたちをイメージしているのだ。

  貴族以外の子どもには、使用人なんていない。そういう子どもたちもできるお祭りがしたいと話すと、マヌエラはなんとも言えない顔をした。


「それは……何のためになさるのですか? 庶民の子どもに、お知り合いなどいらっしゃいませんでしたわよね?」


  確かに、わたし、なんで他の子どもたちの事を考えているんだろう。パーティーでも、貴族の子どもにしか会った事がないのに。

  正直、説明できる理由はない。なんとなく思いついちゃった、これに尽きるのだ。

  わたしみたいに、お祭りと無関係の子がいるかもしれない。そういう子たちもひっくるめて、わくわくしたいなと思った。


「とにかく、やってみよう! 子どものお祭り!」

「はい、リディア様のお望みなら……ううん、でも、難しいですわね。プラトナム領なら公爵家主体で新しいお祭りを周知させる事もできますが、ここは王都です。貴族たちに流行らせるならともかく、庶民の子どもを参加させるとなると……どうすれば」


  難しい顔で首を捻るマヌエラを見て、わたしは自分が無茶を言っている事に気がついた。


  仲良しでもない人にいきなり、お祭りしよう! と言われてやる人がいるだろうか。それに、しぶしぶやるようでは意味がないのだ。子どもは雰囲気に敏感である。なんかやらされているって思ってしまったら、それは楽しいお祭りではない。


「マヌエラ……ワガママ言ってごめんなさい。あの、とりあえずわたしが楽しむからいいわ。お兄さまもいるし」


  わたし、とんでもないワガママお嬢様ね。いつも思いつきばかりで、みんなを振り回して。思いついた事を口からポンポンと出すだけで、計画性ってものが全くない。

  悲しみに沈むわたしに、マヌエラの明るい声が届いた。


「いいえ、リディア様! 落ち込まないでくださいませ。季節のお祭りのように、大大的には難しいと思いますが、まずは孤児院で行ってみてはいかがでしょう?」

「こじいん? それって、身よりのない子どもたちの家?」

「はい、王都の孤児院には、プラトナム公爵家も支援をしております。アーヴィン様にお願いして、リディア様からという形で必要なものを贈って、パーティーを開いてもらうとか……きっと孤児院の子どもたちも、喜ぶのではないでしょうか」

「こじいんか……」


  確かに、普段から支援をしているなら、贈り物もしやすいかもしれない。うーん……でも。飾りやおもちゃを贈って、はい、パーティー始め! なんて、いきなりすぎない?

  それに、貰ったおもちゃが『プラトナム公爵家のリディア』からの贈り物って聞いて、わくわくするだろうか。なんか、夢がない。

  でも、他に良い案も思いつかない……ああ、頭がぐるぐるする。


「考えるの、やめ! ちょっとおやつにしよう」



  アップルパイをかじりながら思う。こんなに頭を使ったのは初めてかも。わたしのこの思いつきや、やりたい! って欲求はどこから来るんだろう。


「そういえばリディア様、どうして私を呼んでくださったのですか? 先ほどの相談なら、ニーナでも良かったのでは?」

「あ! そうだった! マヌエラ、ようもうがほしいの。失敗してあまっているやつ」

「羊毛? ……ああ、新人が染めに失敗したものですか。確かに余るほどあるとは言いましたけれど、よく覚えていましたね」

「えへへ」

「保管室にも少しございますから、お持ち致しますわ。何に使いますの?」

「あのね、ふわふわの玉を作るの。木にかざるやつ!」

「ふわふわの玉……? どうやって作るのですか?」

「作るところ、見せてあげる!」



  用意してもらった羊毛と、お風呂ぐらいの温度のお湯を前に、腕まくりをする。


「いくよー!」


  羊毛の束を引き抜き、端からくるくると丸めてお湯につける。さらに束を引き抜いて、1本目とは別の向きにくるくる。お湯につける……を繰り返して、ちょうどいい大きさにできたら、両手で丸めてこする。最後にぎゅっと絞って……


「ほらー! できたよ!」

「まあ。それが乾いたら、ふわふわの玉になるのですか?」

「うん! 針もいらないから、わたしでもニーナでもできるよ」

「よくそんな事をご存知でしたわねぇ。確かに羊毛は洗うと縮みやすいですけど」


  手のひらの上のふわふわの玉を見せて、自慢する。ほら、ほら、凄いでしょ? 簡単でしょ? 子どもでも、簡単に作れるの。

  そこまで考えて、ハッとした。あれ? もしかして、これ、使えるんじゃない?



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