41 お嬢様、生まれ変わり……だった?
「羊のリンダさん? どういう事かな」
「だから、リンダさんからおもちゃが届くの! ふわふわの玉とこうかんするの!」
「リディ、落ち着いて、順を追って話してくれる? 私もちゃんと聞くから」
わたしは、帰ってきたばかりのお父さまに着替える暇も与えず、話し始めた。
ひつじのリンダさんは冬になると出てくる妖精で、ひつじボールを集めている。
とっても律儀な妖精さんで、ひつじボールを渡すと、お礼におもちゃをくれる。
さあ、みんなでひつじボールを作って、リンダさんにあげよう! 羊毛を濡らして擦るだけの簡単な作業だよ!
「……という事にして孤児院に贈り物をしたいというお話かな?」
「そう! 先にようもうを渡して、みんなでふわふわの玉にしてもらうの。で、それを作ってくれたお礼に、おもちゃをおくるの!」
リディアからの贈り物よりも、妖精からの贈り物の方が、わくわくする筈!
それに、私ひとりで庭に飾るふわふわの玉を作るのも大変だ。他の子に手伝ってもらえたら助かる。もちろん全部貰うのではなくて、孤児院に飾る分は残しておくけれど。
やっぱり、お祭りは自分で準備をしてこそだ。みんなでリンダさんのためにひつじボールを作るのは、きっと盛り上がるだろう。完ぺきな作戦!
「ふふっ……リンダさんか。リディは本当に、面白い事を次々と思いつくんだねぇ。いいよ、やってみようか」
「ほんと!? お父さま、だいすき! ありがとう」
「大したことないよ。考えてみたら、孤児院にはお金を送ったり医師を派遣するだけで、子どもたちが楽しめるような催しを企画した事はなかった。きっと、喜んでもらえるよ」
頭を撫でて優しく微笑むお父さまに、ホッとした。良かった、お父さまのお墨付きも貰えた。
「じゃあ、ひつじのリンダさんのお手紙は、わたしが書いておくね! ようもうと送ってくれる?」
「ああ、任せなさい」
やったー! わたしはこの冬、ひつじの妖精、リンダさんとなるのだ!
もう、寝る時間はとっくに過ぎている。
「わたし……絵、へた」
それでも机の前で粘っているのは、孤児院へ送るお手紙を書いていたからだった。
字が読める子がどれほどいるのか分からないから、ひつじのリンダさんの絵を描いてみた。そう、これは、ひつじのリンダさん。
「太ったお魚に見える……」
わたしが描くリンダさんは、ことごとく食いしん坊のお魚さんになってしまうのだった。
「もう、だめだ……ねむいー」
困った時のお兄さま頼みだ。明日、リンダさんを描いてもらおう。お兄さまの絵は見た事がないけれど、完ぺきなお兄さまの事だ、問題ないだろう。よし、おやすみなさい。
…………
ふと気がつくと、わたしはひつじになっていたのだった。目の前には、ぷくぷくと太ったお魚さんが10匹。
「おい、お前! 見ないやつだな。何しに来た」
「お魚さん、わたし、リンダさんだよ。ひつじボールを集めに来たの」
「ひつじボールだぁあ? はんっ、そんなもんココにはねぇよ! それよりお前、うまそうだな。俺たちは食いしん坊なんだ。生きて帰れると思うなよっ」
お魚さんたちはわたしに群がり、一斉に噛み付く。でも大丈夫、わたしにはふわふわの毛皮があるのだ。噛まれても痛くない。
「お魚さん、戦いはやめよう。むなしいだけさ」
「うっうるせぇ! 俺たちは、腹が減ってるんだよ! おやつが欲しいんだ!」
「ほら、一緒にひつじボールを作ろう。そしたらおやつをあげるよ」
「まじかよ! ひつじのリンダさんやべぇ!」
「ふふ、そんな。ひつじとしては当たり前の事だよ」
「ひつじのリンダさん、半端ねぇっす! どこまでも、ついて行きます!」
「まあまあ、そんなに固くならないで。さあ、みんな、ひつじボールを作ろう。幸せになれるよ」
「おい! みんな、集まれ! リンダ姐さんのひつじボールを作るぞ」
「そうそう、もっと、ひつじボールを作りなさい。ふふふ、いいねぇ、もっともっと……」
ひつじボールを作ると、幸せになれるよ。
ほら、みんな、作らずにはいられない。
世界中に、溢れんばかりのひつじボールができていく……ふふふ。
…………
「ひつじこわいぃぃ」
気がつくと、ベットから落ちて床に転がっていた。良かった、夢かぁ。怖かった。
ひつじのリンダさんが、怖い妖精なわけないよね。だって、妖精がひつじボールを集めているってお話、わたしが作ったんだし。
そう、ひつじボール……そういえば、なんでわたしは作り方を知っていたんだろう。
マヌエラと猫耳を作った時も、羊毛が余っているなんてもったいないなぁと思っていた。
今日も、初めてなのに、凄く手際よくひつじボールを作れた。
そこまで思い返して、ぞっとした。
もしかして……わたし、ひつじのリンダさんの生まれ変わり? だから、無意識にいろんな人にひつじボールを作らせようと……? ああ、考えるのやめた! 怖いよう!
ひつじのリンダさんは、想像上の妖精。
生まれ変わりなんて、ないのだ。
わたしは朝まで震えながら、布団をかぶっていたのだった。




