表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/53

22 お嬢様、待ちきれなかった

 

「おはよう! みて! これみて!」

「おはよう、私の可愛いリディ。それは、セルディン侯爵家からの手紙だね? ロザーリエ嬢とは、お友だちになったそうじゃないか。良かったね」

「そうなの、お父さま! わたしは、ロザリーってよんでいるのよ。お手紙は、さきをこされちゃったわ。ああ、はやく、へんじをかきたい!」


  誕生パーティーから1週間たった日の朝、わたしのもとに、ロザリーからの手紙が届いた。本当はわたしが出したかったけれど、熱を出したり、バタバタしていて書けなかった。

  わたしの天使さまからの、初めてのお手紙。これは、一生大切にしないといけないわ!


「……リディ。お手紙が汚れてしまうから、食事の間は離しておかないと」

「ふふ、だいじょうぶよ、お父さま! この手紙は、わたしがかんぺきに守るから! よごれないわ」

「……そうきたか。いいや、リディ。手紙はなくならないから、大丈夫だよ。ほら、そこに置いて」

「ええー」


  でも、これ、家宝になる予定なんだけれど。離れた所に置くのも不安だわ。心を込めて作ってくれるグレおじさんには悪いけれど、朝食はパパッと済ませてしまおう。




「ふんふん、ふふふ! ああ、なんて書いてあるのかなぁ」

「リディアお嬢様、これから読まれるのですか?」

「うん! よいしょっと。どれどれ……えっと……」


  そんなまさか。


「うふふ、なんて書いてあったんですか?」

「リディ……ありがとう、お茶……ちょうだい」

「まあ、ロザーリエ様、お茶が欲しいのですか?」


  ニーナの、のんびりやさん! そんなわけがないじゃない!


「ニーナ。ゆゆしきじたいだわ。わたし、手紙がよめない」

「ええ? でも……絵本は読まれていましたよね?」

「さいしょに読み聞かせてもらってね。絵本には、王さまとか、女神さまとか、いぬとか、ねことか、そんなお話ばかりだもの」

「なるほど。さっき読んだ部分だけが、知っている単語だったのですね。考えてみれば、リディアお嬢様は、まだマナーしか習っていないのですもの。焦る必要はありませんっ」


  ああ! これが焦らずにいられるわけがないわ。わたしの天使が、返事を待っているというのに!


「ニーナ。手紙って、どれくらいの早さでかえすもの? もらったつぎの日とかじゃ、しつれいかしら」

「いいえ、全く。急用なら、そうと分かるように届くでしょう」


  そう。お返事は明日でも大丈夫なのね。


「あの、お嬢様? どこへ向かわれるのですか? よろしければ、手紙は私が読みますけれど……」

「ニーナ、ごめんなさい。これは、わたしがさいしょに読みたいの。お兄さまに、読み書きをおしえてもらうわ」


  あんなに、読むのが楽しみだったのに。

  どうして、字が読めないって気がつかなかったの?

  ああ、悔しい! わたしは、自分にぬか喜びさせられたのだ。前からポンコツだとは思っていたけれど、今回ばかりは、自分のことを許せそうにないわ。

  わたし、明日までに、絶対にこの手紙を読めるようになってみせる。




「お兄さま! はいるわ!」

「リディ、いらっしゃい。待っていたよ」


  鼻息荒くお兄さまの部屋に飛び込むと、お兄さまがぽふっと受け止めてくれた。

  いつものように抱き上げられ、慌てる。きょ、今日は、少しの時間も惜しいのよ! お兄さまに甘やかされて、バターみたいにとろける時間はないの。

  どうやったらお兄さまを傷つけないように、遊びに来たわけじゃないって伝えられるかしら。

  悩んでいる間に、ああ、いつものソファーが近づいてきて……通り過ぎた。お兄さまの勉強机の前に座らされる。


「さあ、リディ。僕が昔に使っていた教材だよ。ここにあるのを全て覚えれば、まあ、だいたいの手紙は読めるだろうね」


  ああ、そうだった。お兄さまってこういう人だ。わたしがお勉強のために来たこと、お見通しだったのね。

  ということは、朝にわたしがお手紙を自慢した時点で、お父さまもお母さまも、わたしがお手紙を読めないことに気がついていた筈。きっと、あまりに喜んでいるものだから、言い出せなかったに違いないわ。

  それなのに、わたしったら、あんなにはしゃいで……ああ、恥ずかしい。


「……文の成り立ちは、いま説明した通りだけれど。リディ? 上の空だね。お手紙を読めるようになりたいんじゃなかったの? ……これはお仕置き、だよ」

「んむっ」


  うそ、いや、そんな! ……これは!


「ふふ、どう? グレゴーリオさんの特製おやつの味は。リディへの愛と、ピーマンがたくさん入っているって聞いたよ」

「む、むぐ、ううー! おにいしゃま! これ、やだ!」

「そっかぁ。頂いた分がまだまだあるんだけれど、どうしようかな? おやつを食べられないほど、勉強を頑張ってみる?」

「やる! やります! おやつを食べるひまはないわ!」

「ふふ、いい子だね」


  お兄さま、お勉強のときは、スパルタ式なのね……はじめて教わったから、知らなかったわ。

  こんな恐ろしいものを作り出すなんて、グレおじさん、本当はわたしのこと嫌いなんじゃないわよね? あら、ドキドキしてきた。

  ……ああ、お兄さま、おやつを手に持たないで! もうぼーっとしないから!






「リ、リディアお嬢様ぁっ! どうされたのですか!? 朝とずいぶん様子か違いますけれど……」

「ニーナ……気にしないで。すこし、おやつを食べすぎただけなの」

「まあ……そうなのですか? うふふ、お嬢様ったら。びっくりさせないでくださいませ」


  ああ、あの恐怖を知らないニーナが羨ましいわ。


「お勉強の進みはどうでしょう? お手紙、読めそうですか?」

「これで読めなかったら、ロザリーはあんごうぶんを送ってくれたと思うことにする……ええと」


  可愛いリディ

  この間は、誕生パーティーにお招きいただき、ありがとう。手紙を送るには早すぎるとも思ったけれど……貴女のことだから、待っているんじゃないかなって。

  私は、今週は予定が空いているから。暇なら、お茶でもしに来てちょうだいな。

  貴女のお友だち ロザリー


「…………。」

「どうですか? リディアお嬢様っ」


  可愛いリディ


「…………。」

「お嬢様? もしかして、読めないですか?」


  貴女のお友だち ロザリー


「…………。」

「ああ、リディアお嬢様、またお勉強すればよろしいんですよっ」


  可愛いリディ

  貴女のお友だち ロザリー


「か、かわっ……あな、あなたのっ」

「リディアお嬢様ぁっ! ああ、そんな、お気を確かに!」


  あまりのトキメキに、息ができなかった。

  読み間違えじゃないわよね?

  ああ、ロザリー、あなたってやっぱり天使さまだわ!


「ニーナ。がくぶちはある? このお手紙は、やしきでいちばん目立つところにかざらないといけないわ」

「え、飾っちゃうんですか? とりあえず、お返事を書きましょう」

「わたし、ロザリーに、このきもちを早くつたえたいわ! あした会いに行く!」


  もう、まだるっこしい事はできないわ。

  ロザリー、あなたのお友だちのリディが、すぐに会いに行くからね!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ