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21.5 お嬢様のイタズラ

 


「あ! そこのメイドさん! わたしと手をつないで、そこの柱のかげまでつれていって」

「え! わたしですか!? リディアお嬢様と手をつなげるなんて……! ここですか?」

「……こんな所へつれこんで、なんの用ですの?」

「え、ええっ。わた、わたし、幻聴!? リディアお嬢様を遠くから見てるだけでよかったんですっ。ま、魔が差したんだわ!」

「あの、本当にごめんなさい。じょうだんだから、気にしないでね」



「ねぇ、ねぇ! そこのしつじさん! ちょっとわたしのこと、あの部屋につれていってほしいの」

「かしこまりました、リディアお嬢様。お手をどうぞ」

「……こんな所へつれこんで、なんの用ですの?」

「ふ、知りたいですか? お嬢様……」

「わあ! ごめんなさい!」



「いいところにいるわね、料理人さん! あのカーテンのうらまで、いっしょに来てくれる?」

「はい、喜んで!」

「……こんな所へつれこんで、なんの用ですの?」

「お嬢様、聞いてくれますー? もう、僕またやっちゃって……グレゴーリオさんもお冠でした。普通、砂糖と塩を間違えます? 僕、本当に料理人って名乗っていいのかなぁ」

「うん、うん、だいじょうぶよ。お料理がにがてな料理人がいたって、いいと思うの」



「来たわね、にわしさん! むこうの木のしたまで、わたしをだっこしてくれる?」

「おやすい御用ですよ」

「……こんな所へつれこんで、なんの用ですの?」

「ほら、お嬢様。ちょっと登りますから、しっかり掴まっているんですよ」

「え? ……うわぁ! きれい!」

「この間、ゼラニウムを植えたばかりでねぇ。ここから綺麗にみえるでしょう」

「ほんとね! にわしさん、ありがとう」

「いえいえ。お気になさらず」



「ふんふーん、あ、マヌエラ! はいいや」

「どうかなさいましたか? リディアお嬢様」

「ううん、ただ、わたしは負ける戦にはいどまないってだけ」

「……なるほど? いい心掛けですわね」

「えへへ」





「あの、リディアお嬢様? 午前中は、いったい何をされていたのですか? なんだか不思議なことをされていたみたいですけれど」

「今日はねー、ロザリーごっこだよ!」

「はあ。どうして急にそんな事を?」

「えー、わからない? あー、あ、あー」

「もしかして……お声がいつもと違うから? ですか?」

「せいかい! 熱はさがったけれど、まだすこし声が低いから、わたしの声じゃないみたいでしょ? ちょっとだけ、ロザリーの声にもにてるかなぁって。顔のひょうじょうも、れんしゅうしたんだよ!」

「まあ、いつの間に……私にも見せてくれますか?」


「……こんな所へつれこんで、なんの用ですの? ……ね! かっこいいでしょう?」

「えっと、今のがロザーリエ様の真似なのですか? ロザーリエ様って、お嬢様のお友だちでは……?」

「そうだよ! だいじなお友だち!」

「お友だちから、その台詞が出るのですか? ちょっと状況が想像できないのですが。あと、訝しげなお顔なのはなぜでしょう?」

「うーん……わたしとロザリーの出会いは、とくべつだったってことかな。あとはヒミツ!」

「あら、ヒミツなんですか? うふふ、リディアお嬢様、とっても楽しそうですわね。午後も同じ遊びをするのですか?」

「ううん! もうひとつ、れんしゅうしていたのがあるの。ごごのお楽しみだよ」





「あ! さっきのメイドさん! 今ちょっといい?」

「わた、わたし、幻聴じゃないですよね? リディアお嬢様に、呼ばれていますよね?」

「うん、あなただよ、わたしの可愛いひめ。いい子だね。ほら……おいで」

「これは夢かもしれない……きゅう」

「あの、本当にごめんなさい。いまお水もってくるね」



「ねぇ、さっきのしつじさん! そこにすわってくれる?」

「かしこまりました、リディアお嬢様。失礼します」

「ふふ、その制服、とてもにあっているね。ずっとこの部屋に、わたしと、いてくれたらいいのに……」

「ドアの鍵、閉めてきますね」

「わあ! ごめんなさい!」



「またしてもいいところに! 料理人さん!」

「あ、お嬢様ー! ちょっと、隠れてください!」

「なに? どうしたの?」

「今、グレゴーリオさんから逃げているんです! 僕ったら、葡萄酒と葡萄ジュース、間違えちゃって……はぁ、どうして料理人としてお給料もらえてるんだろう」

「よしよし。可愛い料理人さん、おちこまないで。きっとだいじょうぶだから。わたしが、いつも側についているよ」

「え、本当ですか? ありがたいですー。おーい、グレゴーリオさーん!」

「あ、ちょっと、ちょっと待って!」


「バカヤローッ! お前、いくら怒られたからって、全力疾走で逃げるやつがあるかッ。せめて、失敗した牛の葡萄ジュース煮込み、なんとかしていきやがれ!」


「すみません! ……お嬢様ー。助けてくださいぃ」

「え、ええ!? こほん。……わたしのじまんのグレおじさん。可愛いえがおを見せて?」

「は? 可愛い? お嬢ちゃん、正気かよ? おやついるか?」

「う……ぐ。おやつより、グレおじさんのえがおの方が、わたしにはずっとみりょくてきだよ」

「はーん。じゃあ毎日、おやつの代わりに笑ってやろうか?」

「まいりましたぁ!」


「おら、行くぞ! お前、もったいないから、戻ったらジュース煮込み食べな。半分手伝ってやるから」

「グレゴーリオさぁん! うう、いつもすみませんー!」

「仕方ねぇなあ。あ、お嬢ちゃんは、今日のおやつ減らしておくぜ」

「そ、そんなぁ……」



「来たわね……にわしさん……」

「あらあら、どうしたんで?」

「なんでも、ないの……ううっ。」

「そうですか。そういえば、先ほど見たゼラニウムは、いろんな種類がありまして。葉っぱが食べられるものもありますよ。スコーンに入れると、中々美味しくてねぇ。はい、どうぞ。食べてみてください」

「これ……くれるの?」

「ええ。1人で食べるのも、寂しいですからねぇ。さっきの木の上で、食べましょうか」

「う、うう、にわしさん……! だいすき!」

「ふふ、泣き止みましたね」



「ふんふーん、ふっふふーん! あ! マヌエラ!」

「あら、リディアお嬢様。ご機嫌ですわね」

「うん! マヌエラかぁ……どうしようかな」

「なんの話ですか?」

「いや、こんどは、いいしょうぶになる気がして。よーし! ちょっとしゃがんで! ……わたしの可愛いマヌエラ。きょうも、いい夢が見られますように」

「い、いま、額にキス……! 誰か! 誰かいないの!? 今の瞬間を見ていた人は! ああ、折角ならメイド全員の前でやっていただきたかった……ぐすっ」

「えへへ、勝った」




「あの、リディアお嬢様? メイドが1人と、メイド長が、使い物にならなくなっているのですが? いったい、誰の真似をしたんです?」

「ふふ、しりたいの? ……いい子にしてたら、おしえてあげるよ、可愛いニーナ」

「ううっ。……アーヴィン様ですか? それともユーリウス様?」

「どっちもー! だってそっくりだもん!」


「……だそうですよ、ユーリウス様」

「え?」


「そう……リディ、お兄さまはさみしいな。もしかして、僕がいなくても、そっくりなお父さまが居ればいいのかい?」

「そんなわけないわ! お兄さま! お兄さまがいないのなんて、たえきれないっ」

「そう? 僕も、リディがいないなんて考えたくもない。両思いだね、僕の可愛いお姫さま。さあ、こちらにおいで? 今日は一緒に寝よう」

「お兄さま……! わたし、お兄さまのこのえがおだけは、まねできなかったわ……!」

「真似できなくていいんじゃないかな? リディはいつもの笑顔が、いちばん可愛いもの」

「お、お兄さま……! だめ、もうなにもかんがえられない……」








「ユーリウス様、流石だわ………………ううう、リディアお嬢様ぁ! ニーナを忘れていませんかぁっ」



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