↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界守と九官鳥  作者: 俐月
出会い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/49

馴染む日々、京の山奥

 


 正座をして、悠然とお茶を啜っている男を秋臣は眺めていた。

 漆塗の綺麗な座卓が、照明に光っている。


 この屋敷にいると、倦怠感は和らぐ感覚があった。


 あれから間継は、この刻印の消し方を探してくれているらしい。



「妖が刻印を残すというのは、自分の獲物だと周りに知らしめるためだ。

 バイトでもしながら、ここで暮らした方が安全だ。いつ、その妖狐がお前を襲ってくるかわからないからな」



 俺、なんかしたっけ……神社参拝する習慣なんかないし、そもそも狐と遭遇したことすらない。

 間継も、この刻印を残した妖狐を探していると言っていた。


 つまり、俺は……



「完全に餌扱いな気がする」


「あ?」



 彼の瞳がこちらを捉える。琥珀色というか赤も混じってる。彼の外見こそ、人間に見えなかった。



「俺のお茶は?」


「自分で淹れてこい」


「間継さんのは鈴音ちゃんが淹れてきてたのに」


「あれは俺の使いだ」


「さいですか」



 もう三度くらい、このやりとりをした気がする。


 最初はあんなにもてなしてくれたのに。

 あからさまにため息を吐きだして、秋臣は立ち上がった。


 まぁ、いいか。夏にあんな熱いお茶飲めないし、自分で入れた方が早い。


 台所へ向かう自分に、秋臣はハッと我に返った。


 なんか俺、すんごい馴染んでる。まるで実家のように。なんで?

 まぁ、いいか。


 秋臣はふすまを開けた。



 そこには、少し前までには見えなかった幽霊――いや、妖怪たちが数人控えていた。



「冬吾様、お茶お持ち致しましたよ」


「あ、モモリさん。いつもありがとうございます」



 つるんとした卵のような白い肌。目と口と鼻はよく見ないとわからないほどに小さい。

 最初の頃は半透明でエプロンだけが浮いているように見えていた彼女は、この屋敷に憑いた妖怪だった。


 世の中では、彼女のような存在を付喪神とも呼ぶらしい。


 俺は全部ひっくるめて妖怪の方が、わかりやすくて助かるけど。


 ――そう、いつしか妖という存在に慣れてしまっていた。



「恐ろしい」



 お茶と受け取って座卓の前に座りなおした秋臣が、ぼそりと呟く。


 人間の慣れとは、恐ろしい。



「俺は、お前の空っぽな頭が恐ろしいけどな」



 ふいにやってきた返答に、秋臣は勢いよく顔を上げた。



「いや、俺。順応力高すぎだと思いますけど!?

 適応能力ずば抜けてるわ、今回の試験思った以上に点数取れてるわ、陸上で鍛えた足の速さは仕事に役に立つわ。

 褒められることはしても、貶されることした覚えないんですけど!?」



 というか、妖怪相手と人間相手のその落差はなんなんですか? 人間様のこと舐め腐ってるんですか?

 見下してるんですか? 妖怪(お客様)は神様ってやつですか!? もう古いですよ、それ!



 思いつくままに捲し立てた時、コトンと湯呑が座卓に置かれる音がした。



「その、思ったことを全部言う、口の軽さのことを、言ってんだよ」



 鋭い眼光が向けられ、秋臣は口端を引きつらせる。



「これで七度目だからよく聞け、三歳児。静かに、落ち着いて話せ。雇い主からの訓戒だ」


「善処します……」



 小さな声で返答した秋臣は、冷たいお茶で気分を落ち着けることにした。


 はー、体が冷える。八月も半分終わろうとしてるなぁ。

 そろそろお盆だけど、帰れなさそうだなぁ。大学は九月下旬からかぁ。


 ん?



「あああああ! レポートしないと!」



 いきなり妖怪バイトから現実に引き戻され、一瞬で訓戒を忘れた秋臣の叫びが、屋敷に響いた。









「よし、これで終わり」



 盆は実家に帰ってもいいという間継の言葉を退けて、今になってようやく秋臣は、必要なものを間継邸に移動させた。


 家具、家電などはマンションに置いたままだ。

 二年契約で、また一年も住んでいないから引き払うにしても違約金がかかる。


 いるものだけ持ってきたのはいいけど、どうしよう。


 秋臣は今しがた通ってきた扉が消えた先を見た。日本庭園。いつ見ても素晴らしい。

 いや、それはいいとして。いつでも堪能できるんだし。



「間継さん。この屋敷の住所教えてもらっていいですか?」


「あ? なんでだよ」


「マンション引き払うにしても、大学からの郵便物とか、親にも一応、報告しておかないとなぁって」



 その理由に納得したらしい間継が教えてくれた住所、それは――



「京都ぉ!?」



 京都の山奥だった。夏なのに、なんでこんな涼しいのかなぁとか、鳥の囀りが聞こえるのかなぁとか、色々思ってたけど。

 そうか、京都、しかも山奥。なるほど。



 秋臣の頭の中で、京都、山、郵便、親への連絡、大学への届け出、その他の言葉が踊り出す。


 それらはぶつかり、一瞬ではじけ飛んだ。



「やっぱりマンション解約するのやめよ」


「お前、住みもしないのに家賃払い続けるつもりか?」


「いや! どうやって説明するんですか! 東京の大学にいるのに、現住所京都ですよ!?

 こいつどうしたの、何があったの、どうやって通ってるのってなるでしょ!」



 むしろ、郵便局で働く人に申し訳なさすぎる。

 東京で受け取れるものを、京都まで運ばせるんだぞ? 配達料も無駄すぎる。


 くわっと目を見開いて訴えた秋臣の前で、いつも持ち歩いているメモ用紙を取り出した間継が何かを書き始めた。



「ん」と、差し出されたものには、東京都の住所が書かれてあった。


「そこでも書いとけ。郵便もな」


「どこですか、これ」


「間継家の会社のある建物だ」


「え!? 会社!?」



 薄々思っていたが、この男は良いところのボンボーー



「ただのペーパーカンパニーだよ。色々あんだよ色々」



 鬱陶しそうに手を払い、屋敷へと向かっていった彼を見送った後、秋臣は手の中の紙切れへ目を落とした。


 これならたしかに大丈夫そうだ。

 はぁ、家具と家電どうしようかなぁ。


 これがかの有名な住み込みバイトというやつか。


 そこまで考えて、ハッと我に返る。



「いや、引き払うにしても、俺、そんなに長い間、ここでバイトするんですか!?」



 勢いあまって屋敷へと駆けていくと、



「さぁ、一年かもしれないし、十年かもしれないな」



 と、適当な返事が返ってきただけだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

出会い編終了、次から「岩亀編」です。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。