客人として、迎へらる
しばらく続いた道の先で、扉があった。扉だ。林の一本道。そこに、それだけが立っている。
あーなんかこう、こういうMVあるよね。扉だけ設置して、ちょー映える~みたいな、あれ。
現実逃避が極まり、他人事のように考えた秋臣の前で、律が当然のように扉を開く。
次に起こることはもう想像できた。
腕を引っ張られる。放り込むように、押し出された。
もう、どうにでもなれ!!
ぐっと瞼を閉じた秋臣の耳に聞こえてきたのは――
長閑な鳥の囀りと、子供が駆けていくような軽快な足音、木々の葉擦れ音。
開いた視界には、美しい日本庭園が迎えてくれた。
「うわぁ、すごい。初めて見た」
竹を編んだ塀に囲われている。石造りの池に、小さな橋が架かっている。側には灯篭が二つ。
辺りには、日本庭園に相応しい植物が植えられ、踏みしめた砂利が心地よい音を鳴らした。
大学の扉を潜ると林道があって、その先に日本庭園。
うん、わけがわからない。間継律という男と出会ってから、こんなことばかりだ。
「律、おかえり」
聞いたことのある声に振り返ると、平屋の趣のある屋敷のふすまから、あの少女が顔を覗かせていた。
「ただいま帰りました。鈴音」
二人に挟まれた秋臣が、くるくると首を回す。いつしか扉は消えてきた。
もう七月下旬なのに、風が涼しい。秋臣の視線は、無言で律に注がれる。
ここどこ? あの扉なに? 俺を拉致った理由は?
じっと睨んでいると、彼がどこかへ向けて言った。
「帰って早々悪いが、もてなしてやってくれ」
途端、今まで感じなかった気配が、屋敷のあちらこちらからした。
「なに!?」
何かに腕を引かれた。
「ようこそ、お客人。どうぞどうぞ、こちらへ。お食事の用意を致しますね。
お疲れでしょう。湯あみなどいかがですか?」
低い場所から声がする。姿は……何かがいる。半透明の何かが。
悲鳴が喉に引っかかる。幽霊!?
前のふすまが、ひとりでに開かれる。逆側の腕も掴まれた。
「あ、あ、間継さん! なんですかこれ!」
両腕を引かれ、無理やり、屋敷へと連れて行かれる秋臣が首だけ後ろを振り返らせて、訴える。
「色々準備しておくから、もてなされてこい」
「もてなされるって……幽霊に!? というか、色々ってなに!? 先に色々を説明してくださいよ!」
しかし、間継は組んだ腕を解いて、ひらひらと手を振るだけだった。
かぽーん。耳心地のいい音がどこかから聞こえてきた。
露天風呂に放り込まれた秋臣は、心神喪失のような状態で、竹で組まれた塀を見つめていた。
瓦屋根と塀の間に見える空は、雲一つない。青く晴れ渡っている。
ここしばらく体を苛んでいた倦怠感は、軽くなっていた。
この屋敷にきてからだ。風呂に浸かってからは、特に。
久しぶりに感じた体の楽さに、腹から息が漏れ出た。
「わけがわからん。俺、実は死んでて、あの世にでも迷い込んだとかじゃないよな……」
「冬吾様、お湯加減はいかがでしょうか?」
「あ、すごくいい感じです」
謎の幽霊に返事をする。
「それはようございました。ごゆっくりお寛ぎなさいまし」
最初は隠語かと疑ったが、言葉通りもてなされている。
「うん。やめた」
しばらく思考を回していた秋臣は、一旦思考を放棄することに決めた。




