超開花を夢見て、鳥居の森へ
いつしか九月も半ばに入っていた。
佐京との修練は毎日続けられていたが、途中その佐京が体調を崩した。
そして今、またたまに間継の仕事を手伝う日々に戻っていたが……
「間継さーん? もしもーし。大丈夫ですかー?」
間継が死にそうな顔をしていた。
隈が出来ているのがデフォな感じのイケメンだが、最近は特に酷い。
「あ゛あ゛ん?」
「こわっ! 隈がいつもの倍で、迫力がすごい!」
秋臣は、歩いていた狭い路地の壁に避難して声をあげた。
今、二人は田舎の村に来ていた。勿論、依頼だ。
打ち捨てられた神社で、不審な何かがいるという、他家からの連絡が入ったのだ。
「この路地抜けた先でしたっけ?」
「ああ、いや、違う。ここ抜けて、たしかあぜ道進んで、さらに林の……」
説明している途中、間継の首が、がくりと落ちそうになった。
だめだ、こりゃ。いつもなら目的地のすぐ近くに扉を開くのに、今日場所を間違えるくらいに、間継は集中力を欠いている。
この親子は揃いも揃って、無理するのが特技らしい。
「あのですね、間継さん。もう言っても聞かないのは知ってるんですけどね。無理したら早死にしますよ!」
そこまで言って、秋臣はそれが冗談にならないことに気が付いた。
「あ、いや、そういう意味じゃなくて! あ! 鳥! 鳥さんだ~!」
気まずくなって、適当に見つけた鳥を秋臣が追いかける。
追いかけていたら、いつしかあぜ道に入っていた。
「すごい田舎だ。空気がすごい綺麗!」
深呼吸しながら辺りを見渡す。すると、右手の森に何かがあった。鬱蒼とした木々に囲まれている。でもあれは――
「鳥居なんじゃ!?」
古びた石の鳥居に見えた。秋臣は後ろを振り返る。いつしか間継を置いてきてしまっていた。
どうしよう。いや、でも俺、この間に前よりは、ちょっとだけ妖力使えるようになったし。
扉を開けられるようになるのは、まだかかるらしいけど、弱い穢れを追い払うくらいなら出来るって佐京さんも言ってたし。
ほら、漫画でもよくあるじゃん。鍛錬の途中で本番に入って、そのまま能力超開花! みたいな展開!
最悪、俺にはこの足がある。逃げるのだけは得意なこの足が!
それに……正直やっぱり間継が心配だった。
秋臣は自分の手を見て、「よし」と意気込むと、ぐっと握りしめた。
「このまま! 超開花してやるぞ!」
秋臣はそのまま森の方へと駆けた。
「あああああああああ! 誰か、助けて! 間継さあああああん!」
秋臣の絶叫が森の中に響く。逃げていた。何かわからないものから逃げていた。
穢れじゃない。でも姿が見えない。その上――
「帰り道どこおおおおおおお!」
崩れかけた鳥居を確認し、これまた崩れかけそうな石の階段を登り、大きな鳥居をくぐったはずだった。そこで何かに出くわした。
穢れでも妖怪でもないような何かに、一瞬で恐れをなした秋臣は、すぐに回れ右をしたのだが……
でも、降りても降りても最初の鳥居は見えてこない。
「この階段! こんなに長くなかったよね!? どうなってんの!? 異世界に繋がったの!? 俺、異世界転移したの!?」
後ろから何かが追ってきている。何度も崩れた階段に足を取られて転びそうになった。
数十分の逃走劇の末、秋臣は盛大に転んだ。
「ぶへっ! いってえええ」
その上、顔から転んだ。隣にあった木に鼻をぶつける。
「もうこうなったら! 食らえ!」
混乱した秋臣が右手を前に突き出す。当然、何も出ず、彼はハッとした。
気配はある。でもやっぱり姿は見えない。
その間にも、奇妙な笑い声がどこからともなく聞こえていた。
「違う、奏上――えっと、えっと、なんだっけ!?」
その時、階段の石が、がらっと崩れる音がした。
「間継律がこれに謹んで奏上す。顕せ」
どこからともなくそんな声が聞こえてきた。
途端、赤と黄が入り混じった光が周囲を照らす。あまりに眩しさに、秋臣は手で目を庇った。
光が収まった時、先ほどと何も変わらない鳥居に続く階段だったが――
「むっ、境界守殿だったのか?」
目の前には、宙に浮く白い狐がいた。




