座禅の意味、紛らわしき叫び
間継は秋臣のSOSに応えて、一度佐京に休憩するように言った。何せ病人だ。ゲンジロウからの薬も飲まないといけないし、少なくとも食事を摂らないといけない。
佐京の姿が消えてから、冷たい水をがぶ飲みした秋臣が、睨んできた。涙目だった。
「あぎづぐさあああああん、俺もうむ゛り゛な゛ん゛ずけどおおお」
「お前。そんなにじっとしてるのが、苦痛だったのかよ」
「いやいやいや、俺だって休みの日に家でごろごろすることはありますよ!
でも数時間ぶっ通しで座禅か前座か知らないけど、あれですよ!? 音楽聞いたり、映画見たりしならだったら余裕ですけどね!?」
途端、よくわからない弁解を勢いよく言ってきた秋臣に、間継はうんざりしたため息を吐きだした。
元気じゃねぇか。助けるんじゃなかった。
「そもそもなんですけど」
水をお代わりして、また一度に飲みほした秋臣がコップを座卓に勢いよく置いた。
「さっきのあれ、妖力と関係あるんですか? 心を鎮めるがなんとかとか佐京さん言ってましたけど」
「あ?」
いや、確かに座禅は精神安定やそう言った効果はあるが、妖力と座禅の関係性と言えば……
「お前、自分の中の器と妖力感じ取れるのか?」
「え?」
秋臣がぽかんと口を開いた。
この前、彼が本当に小さな光を手から出したのを思い出した。
妖力に封印がしてあるせいで、まともに外へ出せないのだろうと考えていた。
逆を言えば、封印がされていても、ほんの少しなら扱えると言うことだ。
「座禅で自分の内側に意識を向けるのが、一般的な基本の型だけど、他の方法の方が合うならそれを父上に進言してみろ。
あれは、自分の中の器と妖力をはっきり感じ取るためにしてるんだよ」
そこまで説明すると、秋臣はしばらくぽけーっとした後、ハッと目を見開いた。
「そんなこと言ってた気がする!」
どうやら佐京もしっかり説明はしていたが、座禅があまりにも苦痛な秋臣の耳には入っていなかったようだ。
「俺! ちょっと! 佐京さんに相談してきます!」
今、佐京は食事中――と言う前に、秋臣は走っていってしまった。
「先が思いやられるな……」
間継は重い溜息を吐き出した。
それからしばらく、佐京と秋臣のマンツーマンの修練は続いていた。
どこかでまた泣きついてくることを予想していたが、数日後、仕事終わりに今に入った瞬間、聞こえてきたのは絶叫だった。
「どうした!? 何があった!?」
あまりの叫び具合に、間継は閉じられていたふすまを勢いよく開ける。
どんな修練すれば、こんな悲鳴が――
そこには空を仰いだまま、硬直している秋臣がいた。
先ほどの叫びを聞きつけてきた屋敷の妖怪たちが、続々と集まってくる。
「父上! 一体、冬吾に何して」
「僕が何かしたと決めつけてくるのは、無礼じゃないかな? 律。それに……」
うっすらとした微笑みを浮かべ、羽織の中で腕組みした佐京が秋臣を見る。すると秋臣がハッと目を見開いてこちらを見てきた。
「間継さん!」
「今のは、きっと感動の叫びだと思うよ」
そう言った佐京に「は?」と間継が目を点にする。
いや、今のどう考えても死にかける前の悲鳴だっただろ。
その間にも、「間継さん!」と秋臣がこちらへ駆け寄ってきていた。
「わかりましたよ! わかったんです! 器と妖力! あとですね! あと! こう、こーーーんなこういうかんじのふわーんとした何かが、妖力の周りにある感じでですね!」
全身と腕を使って、説明してきた秋臣に口端が引きつった。
「てめぇは紛らわしいんだよ!」
思わず、秋臣の頭を叩きかけた時、「律」と前から声がした。
「暴力はいけないよ。何をそんなに苛立ってるのか知らないけど、八つ当たりはいけない」
おかしそうに口元を緩めた佐京が言っていた。
「父上。でしたら、もう少し誤解を生まないよう、お頼み申し上げます。俺は疲れてるので失礼します」
間継はさっと踵を返す。
馬鹿がひとり、鬼がひとり。こっちは色々忙しいってのに、無駄な心配させんじゃねぇよ。
間継は修練の間、二人に関わらないことを決意した。




