炎天下の座禅、傘の下の師
「わざわざ見送りにこんでもよかったのだがな」
「いえ、人世までご足労していただいたのに、そういうわけには参りません」
間継は、重世のいつもの役所に扉を繋ぎ、出口でゲンジロウへと一礼した。
「其の方の振る舞いも、佐京殿の指導の賜物か?」
「これは私が境界守として身に着けたものです。たしかに父の見様見真似ではありますが、父は……ご存知の通りでして」
長年佐京を見てきたゲンジロウなら知ってるだろう。
たしかに振舞い自体は佐京を見習った。でも、佐京の腹は二枚ある。
到底俺には真似できない黒さは、境界守としては役に立っていた。
ゲンジロウが大きく笑った。
「そうだったな。では行くとする。佐京殿にもよろしく伝えておくれ。律殿も、なるべく無理は禁物だ」
「ご憂慮痛み入ります」
ゲンジロウが背を向ける。間継はその背にもう一度礼をしてから踵を返した。
どうしたもんか。
扉から直接、人世に戻れもするが……
あっちの今日の仕事はなんだったか。メモを来ると急ぎ用は二件だけだった。
「ちょっと散歩がてら遠回りするか」
なんとなく早く帰りたくなかった。
今頃、秋臣は悲鳴を上げてるだろう。
佐京がどんな教え方をするか、俺にはわからない。
「父上は、人に合わせて一番嫌がる修練法を選ぶからな……」
間継は昔の佐京を思い出して、身震いしそうになった。
§§§
人生で一番疲れた日だった。もう無理だ。
秋臣は修行後、夕飯を死んだように食べ、風呂にも入らず、居間に寝転がっていた。
今日一日何をしたかというと、炎天下の中、ひたすら座禅もどきをしていた。
三十分に一度休憩を挟む。途中、佐京が妖力とは何かを教えてくれ、彼が話すのに飽きたら、また座禅。
間継が殿から戻ってくる姿に助けを求めようとしたが、素通りされた。
「間継さん……薄情すぎる」
動き回ったわけじゃない。なのに、依頼で山を走り回った時より疲れていた。
「明日も頑張ろうね」
そう笑顔で言ってきた佐京を思い出した秋臣は身震いした。
明日も同じことをする……んだよね?
基礎っていつまでするの? いやいや、まさか明日まで一日中座っておくわけないよね。
よし! なんたって俺は、あの冬吾の(といってもよく知らないが)の子孫だ!
基礎なんてすぐに終わって、煌びやかな能力開花が待っている!
――と思ったのが、二日前だった。
「佐京さん……これって意味あるんですか?」
お尻が痛い。今何月が知ってる!? そろそろ終わるけど、まだ八月だよ!?
秋臣は佐京恐ろしさに全てを飲み込んで、それだけ尋ねた。
「律から、秋臣くんはパニックになりやすい話を聞いててね。妖力をうまく使うには、どんな状況でも冷静さが必要なんだよ」
「それと瞑想になんの関係が……座禅したら冷静になるとかあるんですか?」
「どうだろう。あるかもしれないし、ないかもしれないね」
隣で傘を差して経っている佐京が涼しそうな顔で言った。
いやそれ、ないの方なんじゃ!? これなんの修行なの!?
ちなみにこれだけしても、まだ十分も集中できない。
ちょっとした音が気になるし、目を瞑ってたらそわそわしてくるし、体は落ち着けたと思ったら変な思考が回り出すし。もう、無理だ!
と思った時、視界の端に間継の姿が見えた。
「間継さん!!!!!」
秋臣は思わず、声を上げる。
間継がピタリと足を止めてこちらを見てきた。その視線が佐京に一度移り、また秋臣を捉える。
数秒悩む素振りを見せた彼は観念したように、進み出てきてくれた。




